熱波――――炎剣乱舞

「…………熾きろアプシオン



 テインツの詠唱えいしょうに応じ、つばに付けられた魔石ませきが輝く。

 放たれた赤い光は刃に伝い、燃え盛っていた炎をおさめ――剣身けんしんから僅かに見える程度にまでおさえたようだった。



「手加減か? 油断だな。あの時も・・・・そのすきを突かれた」

「ほざけよ。大見栄おおみえ切るのは――もっとマシな剣を錬成れんせいしてからにしろ!」



 火花。



 テインツが迫る。

 今度は俺が応じた。



 剣速けんそくを追うことは出来る。

 テインツの太刀筋たちすじに、英雄の鎧ヘロス・ラスタングで見える限り、反応出来る限り応じ、防ぎ――――だが、一向に反撃の糸口がつかめない。

 武器を使い慣れないとはこういうことか。

一体どうやって奴に攻撃を――――



 閃光、ならぬ閃炎せんえん



 紙一重かみひとえける。

 照りつく熱源ねつげん眼前がんぜん通過つうかする。



 大きく後退、尻餅しりもちを着きそうになってあわてて立て直す――テインツの剣が描く軌跡きせきに、まるで残光ざんこうのように炎が付いて回るのだ。



「無様だな異端いたん。まさか知らなかったのか? 所有属性武器エトス・ディミ魔装剣まそうけん属性ぞくせい特徴とくちょうを持つものがほとんどだ。貴様みたいに、ただ氷で剣の真似事まねごとをするだけのものじゃないんだよ――――そら、そらッ!!」

「ちっ」



 炎が攻撃こうげき範囲はんいを広げている。

 間合いを見切れず、動きがもたつく。ただでさえ――剣での攻防にも慣れていないのに、だ。



 マリスタは水。

 テインツは炎。

 だとしたら――



「考え事をしてる余裕があるのかよっ!!」

「ッぐ!!」



 剣をいなし体勢をくずしたところを、テインツの左手で突き飛ばされる。

 背中を壁に打ち付け、反動で体を戻し――目の前に、残火ざんか剣尖けんせん



 俺はまたも、められた。



「――……」



 ……いけないな。どうにも動きが固い。

 剣を使うことばかりに固執こしつしてしまうが……こいつのように、体術を織り交ぜても何の問題も無い。

 まったく、マリスタの奴は一体どうやって短時間であれだけのぼうさばきを「どこを見てんだよ、お前ッ!!」



 眼前のテインツが叫ぶ。

 俺は我に返り、突きつけられた剣先を、そしてテインツを見た。

 奴は既に――――肩で息をするほど、感情を乱していた。



 こいつ、前に俺を追い詰めたときはもっと余裕たっぷりに揶揄やゆして――

 


 ――違う。

 今のこいつは俺を揶揄やゆしたいというより――



「お前さ、自分の状況が分かってんのか……? お前は喉元のどもとに剣を向けられてるんだよ。お前をここで殺すと言った相手が、お前の喉元に切っ先を突き付けてるんだよ!」

「何をそんなにたかぶってるんだ、お前」

「……ッッッ僕の話を聞けよお前ッッ!!」

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