回顧――――あの夜の戦い




◆     ◆




「……なんだ? その鉄クズは」



 ……夜の静けさが、少しわずらわしい。



 スペースの魔石ませきによる魔法まほう障壁しょうへき稼働かどうおんが、やけに五月蠅うるさく耳に届く。



「いや。氷クズ、と言った方が正しいか」

「…………」



 俺の手元を見てあざ笑うベージュローブ、テインツ・オーダーガード。

 だが、こればかりは指摘されても仕方無い。



 俺の手にある所有属性武器エトス・ディミ

 それは戦士の抜剣アルス・クルギアを最初に試した一か月前から、もう、言い訳のしようも無く――――進歩ゼロであったから。



 俺の手には、お世辞にも剣とは呼べない氷の棍棒こんぼうが握られていた。



「……笑わせるなよ。そんなもので僕と戦う気? そんなもので――明日のティアルバーさんとの戦いにのぞもうと思ってたのか?」

「思わないよ」

「何?」

「これは保険ほけんだ。俺は元からあいつと剣術けんじゅつでやりあうつもりはない。勝ち目ゼロだからな。だが……少なくとも素手すでよりは強いだろう?」



 氷塊ひょうかいをテインツにかまえる。



「それだけだ」

「…………馬鹿が。余りにもおろか過ぎるぞ、異端いたん。そんな焼刃やきばじゃ素手にもおとるってことさえわからないなんて。……同じだよ。お前は僕に負けたあの時と同じ、無能むのうなままだ」

「試してみようか。俺が無能のままかどうかっ」



 正面から突撃。



「…………」

「ッ!」



 馬鹿正直に両手で構え、つかに当たる部分をにぎめ――教本きょうほんで見た通り、頭上からの一発を打ち込む。

 テインツは一歩も動くことなく、それを手にした鉄剣てっけんで受け止め……突然、その腕をわずかに下げた。

 一撃に全体重を乗せていた俺は、氷塊を支点してんに前へとつんのめる。



 自然、テインツと至近しきん距離きょり鍔迫つばぜり合う形になる。



「……なんだその振り方。こんな氷クズとそんな剣術で、ティアルバーさんとの戦いに保険をかけられると考えるお前がすえおそろしいぞ、異端」

「どうだろうな。これからさ」

「…………どうすればそんな挑発ちょうはつてきな言葉が出てくるのか、まったく理解に苦しむな。これからもクソも――お前はここで終わりなんだよ!」

「!――?」



 何か、熱を感じて。

 感じたときには、弾けていた。



「ッ!! く――」



 炸裂さくれつ

 剣が触れていた箇所かしょから突如暖色だんしょくが弾け、氷塊を俺ごと押し飛ばす。

 たまらず下げた顔を上げると、そこには先程さきほどと同じ立ち姿のテインツと、



「……炎……」



 刃を炎に包まれた、テインツの剣。



魔装剣まそうけん。いかに無知でも聞いたことはあるだろう?」

「魔力を込められたつるぎか……しかも炎とは。俺の一番嫌いな属性ぞくせいだ――」



〝けいにーちゃん〟



「――反吐へどが出るほどにな」

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