吐露――――ふたりの兄

「……挙句あげくの果てに逆ギレかよ。他人の時間を散々さんざん奪っておいて、自分の目的も解ってないんじゃないか。頭いてんのかお前。クソ面倒くさい、ウザったい……いいだろう、じゃあ逆に俺がお前を殺してやろう、今ここで。これ以上俺の道をはばむというのなら、容赦ようしゃは――」

「どうしてだっ! どうして――どうしてお前ばかりが手に入れる。どうしてお前ばかりが勝ち続ける。お前のようなザコが、こんなザコが決勝に残れるなら僕だってっ――――こいつには何もないのに、僕には――――こんなにこんなに守りたいものがあるのにっ!なのにお前だけがぜんぶ手に入れていくっ、僕の手からはぜんぶすべり落ちていくッ!!」



 ……ウゼぇ。

 もう死ね。



「っ、!――ゥううア゛ッっ!! ぐえ゛ぇ゛っ……」



 俺の足元から床が凍結とうけつする。

 魔弾の砲手バレットを避けた奴の足元を凍の舞踏ペクエシスで凍らせ、バランスを崩した奴の腹部に瞬転ラピド、拳を叩き込む。

 吹き飛ぼうとする奴の首をもう片方の手でつかみ、床に後頭部から叩き付ける。

 奴の顔面に手を向け、



「…………ぼくは、かぞくをっ、」



 散々手間取らせたうらみも込めて、ありったけの凍の舞踏ペクエシスを――――



「――――いもうとを守ることさえできないッッ――――!」












〝けいにーちゃん〟











 ――――何故か、あの少年・・・・の姿が見えた。



 雨の中。鈍色にびいろのナイフを構え、けもののように叫びながら、俺へと突っ込んできていた少年が。



「あぁっ……あ、ぅ……ぁァあ……!!」



 あいつも、今のこいつのように――――顔を、らしていたからだろうか。



 どちらにせよ、ヘマをした。



 何であれ、俺が魔法まほうを止めてしまったことには変わりないのだから。



「……?」



 涙でぐちゃぐちゃになった目を開け、テインツが薄目うすめで俺を見て。



 次の瞬間、あわてて顔を両腕でおおった。



「ッ、バ――クソっ。み、見るなよっ!!」

「…………」  動け。

「くそ、くそっ……お前に関わると醜態しゅうたいさらすことばかりだ。ちくしょう」

「…………」 聞くな。

「どうしたんだよ……やれよっ!! やりゃあいいだろうッ!! ハッ、殺すなんて大口叩いといて結局出来ないんじゃないか! 口だけ野郎!」

「……お前にだけは言われたくない」 くな。

「お前と一緒にするなッ!! 僕は人を殺すことなんてなんとも思ってないっ、僕は――」

「妹が」

「――?」

「……いるのか。妹が」

「――……いるよ。ああ、いるさ。叔父おじ叔母おばがなんと言おうと、妹はいる。今も生きているっ」

「……どういうことだ」

「妹は――――意識が戻らないのさ。もう五年間も、ずっと」

「……植物しょくぶつ状態じょうたい?」

「頭を強く打たれた。生きていてくれただけでも奇跡きせきさ。明らかな殺意を持った一撃で生きびてくれたんだから」

「……ぞくか、何かだったのか。五年前ということは、実技じつぎ試験しけんというわけでも」

「母親」

「ないん……」



 ――最後まで、言葉にならなかった。



 母親。

 今、そう言ったのか。こいつは。



「お笑いだろ。僕の妹は母にやられたんだ――そして父も。父さんはそのまま死んだよ」

「……お前も、助かったのか?」

「いいや。助かった・・・・んじゃない、助けた・・・んだ。僕は僕自身を、この手で――――この剣で・・・・

「――――!」



 テインツの視線を追う。

 うずを描く銀色の線に包まれた赤い宝玉ほうぎょくは、今も剣と共に強い輝きを放っている。

 まさか、こいつ――



「その通りだ。僕は母を殺したのさ。父からゆずり受けるはずだったこの魔装まそうけんで――ありったけのにくしみを込めて」

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