矛盾――――この世で最も嫌いな時間



 英雄の鎧ヘロス・ラスタングく。体を起こす。

やけに重い。――考えてみれば今日、時間はいているとはいえ三戦目だ。



 練習とはいえ命のやり取り。試験という緊張感の中。

 鍛錬たんれんとは違った疲労のまり方をしていてもおかしくはない。

 つくづく自分のカン・・の無さが嫌になる。

 そのくらい気が付け、馬鹿が。



 だが丁度いい。

 物理的に、これ以上の鍛錬たんれんが明日にさわることがわかったのだ。

 益々ますますもって、これ以上奴のクソ面白くも無い自分語りに付き合う理由は無くなった。

 ロハザーの時と同じてつまない。



「! お前っ――――待てよ!!」

「…………」

「待てって――――言ってんだろッッ!!!」



 炎が床から吹き上がる。

 たまらず顔を腕でおおう。



 見ると、眼前がんぜんには分厚ぶあつい炎のかべ

 振り返ると、テインツのつるぎから放たれた炎が剣の周囲へと戻っていく所だった。

 炎はなお魔装剣まそうけん剣身けんしんを包むようにして存在している。



 …………クソが。

 本当に鬱陶うっとうしい。

 奴が何を目的としてどこまで本気か測れない以上、無闇むやみにこの壁を突き破るような真似まねはしない方が賢明けんめいだろうか。



 余計な消耗しょうもうは避けたい。

 この夜中に、自分では治せないような怪我けがも避けたい。

 ああ、くそ。こういった時の連絡手段をスペース内に用意しておけというのだ。



 テインツに向き直る。

 俺の都合などお構いなしに、奴はそれまで以上の怒り顔で俺をめ付ける。

 キレたいのはこっちなんだよ、害悪がいあくが。



「…………悪ふざけも大概たいがいにしろ、テインツ。何が望みだ? 謝罪しゃざいか、敗北はいぼく宣言せんげんが欲しいのか? マリスタとの関係を切ってほしいのか? いくらでもやるぞ。だからもう構わないでくれ」

「そんな文句で逃げられると思ったのか? 僕はお前を殺すと言っただ――」

「だったらどうしてさっき俺を殺さなかった下げたじゃないか剣を、お前は」

「当――――たり前だろ、殺せるわけないだろ!!」

「殺…………はぁ?」



 何…………何を言ってるんだ、こいつは?



「お前を殺せば、きっとまたティアルバーさんに目を付けられるじゃないか」

「ティアルバー?」

「分かれよ! ああ、畜生ちくしょうッ!」



 無駄むだに剣を振り、テインツが怒鳴どなる。

 その目は相変わらず、強い感情をたたえているが……対して俺の心は急速に冷め切っていく。

 当たり前だ。どうして赤の他人の感情の発露はつろに俺が付き合わなきゃならない。



「試合を見ていれば分かるだろっ。ティアルバーさんはお前と戦うのを楽しみにしてるんだ、そこに僕がお前を殺したなんて知れてみろ!! 僕は――僕の家族は今度こそ終わりだよッ!! クソォッッ!!!」

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