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 新しい仮定の先に待つ、敵の正体。

 そのさい有力ゆうりょく候補こうほとなる、最悪の相手に。



「……どうしてナタリーはアマセ君に頼んだの?」

「知らん」

「決まってるでしょフォンさん。彼女は、彼なら自分と同じ可能性に辿たどり着いていると信用したわけだよ」

「!!!」

「おいギリート。波風立てるようなことを言うな、こんなところで」

「ハハ、ごめん」

「死ね……」

「ケイ・アマセ。お前は何かつかんでいるのか? これまでの話から」

「…………ちょっと考えていけば、みんなそこに辿り着く」



 フェイリーの言葉に返し。

 そのまま、俺は口火を切った。



「仮定は『襲撃者は痛みの呪いを見た者を襲い、記憶を失わせる』ことだ。疑問はいくらでも湧いてくる。記憶を失わせる目的は何か。記憶を失った者がどうなるのか。そもそも襲撃者はどうやって痛みの呪いの存在を知ったのか。本当に『見た』者だけが襲われているのか、全員が記憶を失っているのか。どれも今は、答えが出ない。仮定に仮定を重ねるのはやるべきじゃない。――――そんな中で、唯一ゆいいつ今の仮定だけで答えを出せる疑問がある」



 一呼吸ひとこきゅう、置いた。



「『襲撃者たちがどうやって呪いを見た者を特定したのか』だ」

『!――……』



 ハッとし、黙り込む者がちらほら。



 当然・・、一番早かったのはクリクターだった。



「……アマセ君。それは、」

「痛みの呪いを目撃したのは、あのとき俺とナイセストの戦闘を見ていた者全て……正確な人数や一人ひとりの顔が割れる訳が無い。プレジアには総勢そうぜい八百人を超える人間がいるんだ。その全てに赤銅しゃくどうの化け物を見たかとたずね、正確な答えを聞き出してその後やみまぎれて襲撃? どんな苦行くぎょうだそれは」

「で、でも現実に、今回襲われた人はみんな、その呪いを見てるよ? 十人以上襲われてるのに、偶然なんてこと」

「そう。つまり襲撃者はここに寝てる全員が呪いを見たのを知ってたんだ。プレジアの者全員が呪いを見た可能性がある状況の中で、襲撃者はこいつらが呪いを見た確信を得ていた――――呪いの目撃者もくげきしゃを知るすべを持っているとしか考えられない」

「て――敵にめんが割れてるってこと、あたしたち――!?」



 青ざめてエリダ。

 システィーナが彼女の肩を叩いた。



「可能性があるってだけよ、エリダ。目撃者を知ってるかもとは言ったけど、全員を知ってるとは言ってないでしょ、アマセ君」

「ぇ……あ、そっか」

「ああ。そこで改めて、襲われた顔触かおぶれを見た」

「! そっか、風紀委員ふうきいいんは腕章を付けてるし――」



 リアがめずらしく声を張る。

 首肯しゅこうで応じた。



「俺とナイセストの試合の時、こいつらは試合会場に勢揃せいぞろいしていた。襲撃者はそれさえ知っていたんだ。となると、」

「あのとき、彼らは試合会場に居た、ってことになるのね。痛みの呪いを見た人間を調べ上げて――」

「いや。恐らくそっち・・・じゃない」

「え……」

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