14

 人間を任されていた神、ゼタンによってヌゥが消滅させられてから、人間たちの敗走はいそうは始まる。

 ゼタンはその圧倒的な魔法の力で人々を虐殺ぎゃくさつし、従わせ、分断し、誰が敵で誰が味方か解らない疑心暗鬼ぎしんあんきの状況に人々を追いやり、仲間割れによる同士討ちを狙い。

 ついに人間達は、旗頭はたがしら――魔女となったタタリタを、ゼタンによって撃ち殺されてしまう。



 このシーンはその直後の――タタリタの言葉をに戦いを再開しようとする、立派な騎士となったクローネが魔女ユニアに引き留められるシーンである。



 物語の上では、タタリタはこの後復活する。

 復活し、ついにユニアとクローネの三人でゼタンを打ち滅ぼし、同時に他の神々を封印することにも成功し――人間達は自由を手にするのだが。



 俺が今練習しているこのシーンでは――彼らに、そんな先の希望など見えてはいない。むしろ絶望の只中ただなかだ。

 リーダーを殺され、主だったメンバーを殺され、共に凱歌がいかを歌おうと誓った仲間達は分断され、争い合い。もはや見るにもえない敗者の末路まつろ

 ユニアが言い放った通り、クローネは「死に場所を探しているようにしか見えない」のだ。



「『神を倒せるかもしれない』とか、『自由な暮らしが手に入れられるかもしれない』とか。それそのものを信じるんじゃなくて。『いつかまた希望は現れる』って、信じることを続けること。それが、この物語が伝えたいもう一つのことだと思うの」

「ど、どう違うのかな……解らないよ」



 ……希望そのものを信じる、のではない。

 希望の無い絶望の中であっても、いつかまた希望を抱けることを信じ続けろ、ということか。

 だとしたら。



「……おろかな言葉だな。共感できそうもない」

「愚か?」

「要はあるかもしれない希望を妄信もうしんして自分を保て、ということだろ? 無い物強請ねだりは思考停止だ。それが場面に限った話でなく、作品の根底こんていに流れているというなら尚更なおさら演じ――」

「そうじゃないよ」

「――違うのか?」

「何かにすがることじゃない。自分を保てなくってもいい。絶望して、何もかもをめちゃくちゃにしてしまったって、きっとその先に幸せはあると……それをまたいつか、信じ始めて欲しいってこと。自分は幸せになりたいんだって、希望を求めているんだってことを、思い出して欲しいってこと」

「………………」

「わ……分からないん、じゃないかな、それ。この話を読み込んでる人にしか」

「お人好ひとよしにもほどがあるな」

「え」



 パールゥが俺を見る。

 黙って俺にうなずいたリアから、俺は目を離さなかった。



「そう。お人好しなの」

「え、何アマセ君。お人好しって、リアが?」

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