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「……うん。作者不明。でも、太古の昔からこの国に伝わる戦記せんき。そんなに昔の人がまとめた物語が、今なお人を魅了みりょうし続けてるって、すごいよね」

「……しょ」

「正直に言うとさ。私、全然わからないんだよね。この本の魅力が」



 俺の言葉をさえぎり、パールゥがリアに歩み寄る。

 リアは座ったまま足元に手を伸ばし、置いてあった俺の台本を手に取った。

 無表情のまま、パラパラと羊皮紙ようひしぼんのページをめくっていく。



「すごい騎士と魔女が生まれて、神を倒すお話……人のきずなが大きな力を討ち倒す、って、正直ありふれた展開、じゃない?」

「うん。それが面白いって人もいると思う」

「でも、殊更ことさらこの物語のその展開・・・・が面白いとは私――あ、あんまり思えなくって。申し訳ないんだけど」

「謝ること無い。本の好き嫌いはよくあることだし」

「でも」

「でもね。この話には、もう一つ大切な要素があるの」

「『希望を失わないことの大切さ』、だろ?」

「そ――そう、それだよね、アマセ君。でも、それも別にいちいち取り上げる程の――」

「違う」

「――え?」



 リアがパタンと本を閉じ。

 少しだけ柔らかい顔で、俺とパールゥを見た。



「もう一つの、大切なこと。それは、今あなた達が演じたページに書いてあったことだよ」

「いや……だからそれが、希望を」

「『どんな絶望の中にいても、〝またきっと希望を持つことが出来る〟と、信じることをやめないこと』」



 ――リアの言葉が頭の中を流れて、抜けていく。



「希望を……信じること?」

「違う。今希望が無くても、きっとまた希望を抱けると信じること」

「…………今希望が無くても」

「か……変わらなくない? 私が今言ったことと、リアの言葉と」

微妙びみょうに違う。ずっと言うよ。ここがミソだから」

「わ、わかんないよ微妙なとこなんて……」



〝どうかいつか、きっとまた信じて。希望の灯がまた灯ることを。絶望の中でも希望を求め続けられることを〟



 ……『英戦えいせん魔女まじょ大英雄だいえいゆう』のこのシーンは、お世辞せじにも未来に希望を持てるとは言いがたい場面だ。



 おくびょうクローネ、げんきものタタリタ、うちきなユニア。

 この三人が神の圧政に耐え兼ね、同じく神の世界に異を唱える神「ヌゥ」に導かれ、反旗はんきを翻したこの物語は、神と同じ力――つまり魔法まほうを扱える体をヌゥから授けられた「魔女」と呼ばれる者達、そして魔法を扱う人間達に優位な形で展開していく。



 しかし、創造主かみがその気になれば、創作物にんげん駆逐くちくなど造作ぞうさも無いことであった。

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