12

「『君がダメなら俺が灯す。俺がダメなら、また他の誰かが灯す。別の何かが灯してくれる。だから大丈夫。希望の灯は、きっと灯る』」

「『気休めを言わないでっ! 言わないでよっ!!』」

「『不安だよね。無い物強請ねだりは辛いよね。でもユニア、どうかいつか、きっとまた信じて。希望の灯がまた灯ることを。絶望の中でも希望を求め続けられることを』」

「『クローネっ』」

「『僕は僕を信じている。そして君を信じている』」

「『クローネっ!!』」



 舞台端へ消えるクローネ。

 これでこのシーンは終了。

 ここから、ギリート演じる神ゼタンとの戦闘へと向かっていくのだ。

 最も避けていたシーンであり、最も――台本の解釈かいしゃくに理解が及ばなかったシーンでもある。



「――上っ面だけだね。アマセ君。まだまだ気持ちが込められると思う。追い込みかけよ」

「お前は監督かんとくか何かかリア。ダメ出しするのは監督の仕事だろ」

「別にいいでしょ。ディノバーツ先生の演出えんしゅつ意図いとからは外れてないし」

「なんで出演者でもないあんたがいちシーンの演出意図を覚えてるんだよ……」

「あ、そっか。アマセ君は知らないよね」

「私、『英戦えいせん魔女まじょ大英雄だいえいゆう』の大ファンなの。昔から。レアものな小説の初版しょはんを持ってるくらいには。だから読み込み半端はんぱじゃないよ」

「だからって」

手垢てあかでページの端が風化ふうかするくらい読んだわ」

「風化……!?」

「で、でも、なんで私たちの個人練こじんれんを特に見なくちゃいけないのかな、リア? 先生以外見られてるとなんだか、練習に集中できないんだけど」

「集中しなよ、今日の夜はもっと大勢の人に見られるんだよ?」

「そうじゃなくてさ」

「……ああ、そういうこと。大丈夫だよ、他意はないから。二人きりになる邪魔をしようなんて、思ってないから」



 光が反射した丸眼鏡の奥で目を笑わせるパールゥ。

「だったら今すぐ消えろ」、といったところだろうか。

 俺としては非常に助かっている。

 ……助かっているのだから、多少の口出しには目をつぶるべきか。



「それじゃあ、口出しついでに教えてくれ。どうすればよくなると思う?」

「あ。……そう言われると、ううん。なんだろう」



 リアは壁際かべぎわ無造作むぞうさに置かれた椅子いすの上で俺から目を逸らし、右手でその黒髪をいじった。

 パールゥが小さく強く嘆息たんそくした。



「無責任だよリア。散々言ってたくせにそれって」

「……作者の思想に近付く、こと?」

「作者?」



 答え合わせを求めるようなリアの視線。

 俺が知るかよ。大体――



「これは歴史を基にした台本だろ。作者なんてのは――いるか」

「うん。歴史を基にした・・・・物語だから。きっと作者はいて、これはその作者が切り取ったシーンの連続で構成されてる」

「だが、確かこの台本の作者は――」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る