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「違う、この物語の作者がだ。絶望し尽くした人間がいたとして、それでも幸せを求めて生きろ? 希望を求めて生きろ? 綺麗事きれいごとばかり並べ立てて大層たいそうなことだ。痛みを知らない、光にしか生きなかった人間だけが口に出来る戯言たわごとだ。こんなもの」

「……なんで怒ってるの?」

「怒ってない。ただ明確に否定して、拒絶して。少しでも遠ざけておきたいだけだ」

「私はこんな風に生きたいと思う」



 リアの目がりんと俺を見据みすえる。

 俺のにごった瞳が映って見えそうな程に輝く、黒い目。



 まぶしい奴だ。



「そうか。どうぞご勝手に、だ。とにかく俺はそんなものに共感しない」

「そっか…お人好しにも色々いるんだね」

「おい待て。誰がお人好しだと?」

「あ、アマセ君?」

「君だよ」

「馬鹿も休み休み言え。なんで俺がお人好しに――」

「君の今までの行動を見て『お人好しじゃない』なんて言う人、いないと思うよ」

「な――……」

「ティアルバー君と戦ったことも。マリスタと、私たちとなんだかんだ一緒に居ることも。あれだけ酷い仕打ちを受けた風紀委員の人たちに、勝利をかさに着て接しないことも。私は、全部君の優しさだと思う。……だから、解ってくれると思ったのだけど」

「いいや。俺には解らない。勝手に買いかぶるな。俺はそんな聖人君子せいじんくんしにはなれない。……人間はそんなに大層な生きものじゃ無い」

「そう。じゃあいいよ。そうして否定ひていを乗せて演じるのも、それはそれで味が出るはずだから。解釈出来てないよりずっといい」

「…………」



 ……本心だった。

 本心でなくてはいけなかった。

 だってそんなものを理解してしまえば、今の俺そのものを否定することにもなりかねないから。

 人間がそんなに聞き分けのいい生きものだったら、俺はきっとこんなところに立ってはいない。



 ああ、くそ。

 たかが劇のワンシーンの解釈ごときに、何を感傷的にさせられているのか、俺は。



「誰なんだろうね。この物語の作者って」

「……作者?」

「うん、作者。誰だと思う? パールゥ」

「え、私? え、あー……あ。わ、、とか?」

「ふふ、そうね。それしか手掛かり無いものね」



 『英戦えいせん魔女まじょ大英雄だいえいゆう』の作者は不詳ふしょう

 しかし、どうして不詳とされているのか不思議なくらいに――この話には、あからさまに作者ではないかと疑うことの出来る者が存在している。



「だって……書いてあるよね? 物語の終わりに、その……この話を、魔女ユニアが書物に書き記したって」



 魔女ユニア。

 クローネへの想いを胸に秘め、英戦の魔女と大英雄の物語をつづつむいで、後世の人間達にのこした少女。

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