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 この物語は、ユニアが書き記した書物の一部始終いちぶしじゅうでもあり、歳を取ったユニアの回想録かいそうろくでもありました、と結んで幕を閉じる。

 となれば、必然的にこの物語の実際の作者――この場合、編者へんじゃと呼ぶのが正しい気もするが――は、魔女ユニアである、とするのが最も自然だろう。



「でもね。また深読みだって思われるかもしれないけど……私、えて『作者不明』にしてあるところにも、この作品の面白味おもしろみを感じるの」

「……魔女ユニアは、敢えて作者が自分だと明かさなかった、ってことかな?」

「パールゥするどい。うん、私もそう思う」

「その理由にも見当が付くな。大方おおかた、作品に込めた思いがあまりに現実離れし過ぎていて作者を名乗れなかった、といった所じゃないか。内気なユニアの正確にも一致いっちする」

「で、でも……自分の主張を作品に込められない作者なんて聞いたこと無いよ?」

「でも他に解釈の仕様しようも無いだろう。リアは何か考えがあるのか?」

「…………ない、かな。うん」

「だそうだ。フリークのお墨付すみつきだぞ。さあ、稽古けいこを再開しよう」

「そ、そんなことあるのかなぁ……」



 自身も結構な本好きであるパールゥは釈然としない顔で、神妙しんみょうな顔をしたリアの手元にある台本を見つめた。



 事実は小説よりなり。ならば逆もしかり。

 そうそう、全てにおいてドラマチックで辻褄つじつまのあった理由など無いものだ。




◆     ◆




 そうして稽古を再開して、どれくらい経った頃だろうか。



「が。……頑張るんだね、やっぱり。アマセ君って」

「何?」

「だってっ……もう随分同じシーン繰り返してるよ」

「ああ……疲れたなら好きに休んでいいよ。付き合わせてるのは俺の方だしな」

「う、ううん大丈夫。一度頑張ると決めたアマセ君がどんな風に努力するのか、興味あったし……それに、この『貸し』はちゃーんと返してもらうつもりだから」

「何?」



 台本から目を離し、パールゥを見る。

 パールゥは汗で湿しめった桃色の髪の向こうで、熱演ねつえん上気じょうきしたほおを更に赤らめ、息を吸った。



「どこか空いてる時間で、私と一緒に魔法祭まほうさいを回って」

「…………」



 ……リアがまだ、ここに居てくれればよかったのに。

 目先の目的しか見ないからこういうことになるのだ、天瀬圭あませけい

 いくら練習がしたいからと言って、経費けいひとリスクを考えねばこうなるのは自明だったでは――

 ――経費とリスク、か。



「ダメだな」

「え、」

「確かに練習には付き合ってもらっている。だがそれ・・にはまだ足らない」

「そ、それって?」

「要は俺とデートがしたいってことだろ。俺はまだそれほど大きな借りを作ったつもりは無い、と言ってるんだ」

「……ひどいこと言ってる自覚は、ある?」

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