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「俺とお前の戦いの約束。まだ有効だってことでいいんだよな」

「あらら、僕の世間話は一切無視ってワケ? ムカつくなぁ、ホント約束反故ほごにするよ、しまいには。もうちょっと他人とコミュニケーションとる術を身に着けた方がいいよ」

「お互い様だろ」

「まあね。人間は結局、自分が許容できるペースでしか会話が出来ないできそこないだから」

「ゼタンのような口振りだな」

「少なくともそこには共感してるって話さ」

「で、どうなんだ?」

「――まだいいよ。でもねえ、なんていうのかな。ノらないんだよね、今度は僕の方が」

「お前の都合なんぞ知らん。約束が有効なら今回も果たしてもらうまでだ」

「なんていうのかな……二日目の朝から今まで、君はアルクスに捕まってロクに動けなかったでしょ。んで、以降は今が初のシャバだ」

「何が言いたい」

「んー、そうだね。回りくどいのも可哀想かわいそうか。――解決してないだろ? 『痛みの呪い』の問題」

「…………」

「それどうにかしないと、天地がひっくり返っても僕をどうこうするなんて出来ないし、義勇兵ぎゆうへいコース自体も危ういし。諦めてるなら諦めてるって早く言ってほしいんだ、僕もひまじゃないから」

杞憂きゆうだよ」

「え?」

「要件は終わりか? なら行く。鬼監督おにかんとくやらパパラッチやら、見られながら話すのも好きじゃない」

「そりゃ解ってるけどさ。え、ちょっと待ってよ」

「なんだ。まだ何かあるのか」

「いやいや、僕の質問に答えてくれよ。諦めるの? 諦めてないの?」

「同じことを言わせるなよ面倒な。言ったろうが、『あの約束はまだ有効か』って。それで推しはかれんお前じゃないだろう」

「…………へえ。それは考え無しの玉砕大突撃とは違うんだよね? もちろん」

「もう言わん。勝手に思い悩め」

「対策が」



 ギリートの声が俺のそれをさえぎる。

大貴族だいきぞくは薄ら笑いを止めた。



「…………出来たってこと? 『痛みの呪い』をしずめることが」

「…………」



 ――真顔のギリートを見たのは、これが初めてかもしれない。

 静謐せいひつで、それでいて刺すような薄ら寒さを持った怜悧れいりな視線。

 それら両眼りょうがんが今、必死に俺を見据みすえ、俺の中の弱い部分を探り、ほくそ笑もうとしている。

 そんな顔に、俺はどこか興が乗ってしまって。

                        死ね死ね死ね



〝お前は魔王になるんだ、圭〟



 久方ぶりに、うそぶいて・・・・・みることにした。



「――――まあ見てろ。俺の剣が、お前の期待を大きく外れて上回るのをな・・・・・・



 ――――ギリートの顔がいらちにゆがむ一瞬を、しっかりと目に焼き付けて背を向ける。

 それと同時に、視界が暗闇に包まれ始めた。

 開演のブザーが鳴り始め、大観衆のざわめきも消えていく。



 こんなこころよい気分は、実に久し振りだった。

 だがそれも当然。

 


 少なくとも、実働部隊戦力の大半を大きく拘束こうそくされる劇中は、マリスタ達も動けない。

 俺が今最優先に考えるべきはただ一つ、ギリートとの信用合戦・・・・だけなのだ。



 今、俺が入るべき蚊帳かやの中へ。



 だから、願わくば。



「……上手くしずまってくれよ。俺の『痛み』」



 暗闇の中、目を閉じて空気を吸い込む。



 英戦えいせん魔女まじょ大英雄だいえいゆう

 千秋楽せんしゅうらく――――最後の幕が、上がる。

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