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 言いながら、リリスティアの右隣に、それぞれ腰掛けるテインツら。

 苦笑いでこたえながら、リリスティアは改めて舞台ぶたいを見る。



「うわ、近いなー……でも、これだけ近いなら大丈夫かな」

「あ、何かご要望ですか? キスキルさん」

「だから敬語じゃなくていいって言うのに、ふふ――――舞台が近いから、これなら役者みんなの顔が見れるなって思っただけ」

「――……」

「――うん?」



 先程までのテンションはどこへやら、急に押し黙ったテインツとチェニクにリリスティアが首をかしげる。

 やがて意を決したように、そしてどこか申し訳なさそうに、リリスティアの隣に座ったテインツが口を開いた。



「ごめん、キスキルさん。もしかしたら僕たちは、君に満足に芝居を見せてあげることができないかもしれない」

「え?」

「話があるんだ。僕ら義勇兵ぎゆうへいコースが関わってる、例の件について」

「…………」




◆     ◆




「ま、まだ始まんないですかね?? なんかずいぶん遅くないっすかね???」

「キンチョーしてんなスソにしがみつくなウットウしいっ。予約者が遅れてるか何かだろ」

「だだだ、だだだだってロハザーっっ」

「マリスタ」

「ひええすみませんっっ、出番でしたか?!?!?――ってケイかいっ! おどかさないでよ舞台で台詞トチってやるわよっ」

「縁起でもねーこと言ってんじゃねェッッ。おいアマセ、マジでこいつ落ち着かせろ。こンままじゃ舞台ぶたいで何やらかすか分かったモンじゃね――」

「お前ら何をたくらんでる?」



 ――ロハザーとマリスタのまとう気配が変わる。

 こうも態度を変えるとは。こいつら、やはり何かを隠している――



――いや。

隠してさえいない・・・・・・・・



「話せ。多少なりとも軌道修正きどうしゅうせいを――」

「私達を信じて!」

「――は?」

「その通り。果報かほうを寝て待っとけ」

「っ、真面目な話をしてるんだ俺は。二人してはぐらかすな」

「はぐらかしてないよ、今答えたじゃない。『話せない、私達を信じて』って」

「ふざけてる場合かっ。そういうことを言ってるんじゃ、」

「ふざけてんのはテメーだろがアマセ。ココはお前の出る場所じゃねーだろ所定の位置に移動しろっ」

「聞け。いいか、俺の作戦は――」

「『作戦は生きてる』! もちろん私達もそう思ってる・・・・・・・・・よ、ケイ!」

「!――だ、だったらどうし――」

「ケイ」



 肩をつかまれ、振り向かされる。



 そこにいたのは、鬼の形相をしたおに監督かんとく



「シャノリア」

「開演時間過ぎてる。自分の位置に戻って」

「だがシャノリ――」

「戻りなさいッ!!」



 ピシャリと言い、話は終わりだとばかりに去っていくシャノリア。

……どうやら、しばらくは取り付く島も無さそうだな。



「プフッ。えらい剣幕けんまくで怒られちゃったねぇ、アマセくん」

「!――――ギリート」



 相変わらずの薄ら笑いを浮かべ、神ゼタンの衣裳いしょうを着込んだギリートが俺の前に立つ。



「…………」



 いつも奴が話しかけてくる距離きょりから、数歩離れた場所で。



「へえ。わかるんだね、闘争心とうそうしん。君にも」

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