11



 もがく。

 久しぶりに、違う、いきなり奪われた唇を話そうと必死に動くも、リセルは俺の動きが読めているかのように腕で肩をらえ、腰に手を回し、俺に深く――ふかく、口付ける。



 ――――あの庭園ていえんの二人も、こんなに深かっただろうか



「っ違うッッ!!!」



 口が離れる。

 と同時に、リセルを突き飛ばす。

 魔女は――――、リセルは至極しごく冷静れいせいに体勢を立て直し、――また、ひどく冷めた目で俺を見た。



「覚えておけ。『痛みの呪い』の発作には、発作が引き起こす心的衝撃ショックを、一時的にでも上回るそれ以上の衝撃ショックが効果的だとな――童貞どうていのお前には、これが一番効くだろう」

「違うと言っているッ!! 俺が聞いているのは」

「心を乱すな馬鹿者がッ! 今この場で廃人はいじんになりたいかッ!!」



 ――一喝いっかつに、言葉が引っ込む。



 正論だ。ぐうの音も出ぬほど。



 だが、ではどうしろと。

 このき立つ心を、どうしようもなく持て余す狂気きょうきを。

 俺は一体――お前は一体、



「お前は終わりだ。天瀬あませけい



 一体、俺に何を言おうとしてるんだ。



「……待て。待てリセル、」

「確かに、お前は『痛みの呪い』を生きびた。だがそれだけだ。この二ヶ月のお前を見ていて確信した。呪いは確実にお前をむしばんでいる。お前は……もう戦えない・・・・・・

「待ってくれ、」

魔女わたしはお前に言ったな。『十分な強さを手に入れたとき、全てを話そう』と。だが、お前は今や感情をたかぶらせるだけで狂気きょうきの発作を起こしてしまう身になった。――そうなった人間がどんな破滅的はめつてき末路まつろ辿たどるのか、私はよく知っている」

「リセル、」

「日常生活でさえ、そのていたらく――――お前自身が一番よく解っているだろう。戦いや魔法の行使で精神をすり減らすたび、お前は――今のような発作で動けなくなる」

「リセルッ、」

「………………医者や校長にも言われていたな。では私からも告げよう、元共犯者・・・・……復讐ふくしゅうあきらめろ、けい。お前はもう、魔王にはなれない。戦える体ではなくなったんだよ」

「聞いてくれリセルッ!!」

「私はパーチェ・リコリスだ・・・・・・・・・・ケイ・アマセ・・・・・・

「――――――ぁ、」



 閉じていく。



〝将来のこと、まじめに考えてるの?〟



 俺の将来が、目の前で閉じていく――――



「ぁあああぁあああぁぁぁッッッ!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る