12



 魔女の肩をつかみ、ベッドに押し倒す。

 リセルはされるがまま、俺を冷酷れいこくに見上げる。

 俺は――――俺は英雄の鎧ヘロス・ラスタングを発動させ、四肢ししを使って魔女を完全にき、顔を鼻先がれそうな距離きょりまで近づけてみせた。



 魔女は一度目を閉じると――――完全にめた目で俺を見た。



「そら。お前はあの時・・・と一緒で、こんなにも弱い」

「何を……何をッ!! 俺は、俺はこんなに――――強くなったのにっ!」

「そうだ、だから安心しろ。急速に身に着けた力は、その分おとろえるのも早い。この数ヶ月がまるで夢だったかのようにな」

「そうだ夢だ。俺には成さなければならない野望ゆめがあるッ!! それはお前だって」

「そうだ。いっそ全部・・・・・夢にしてしまえばいい・・・・・・・・・・



 ――魔女の体に、光が満ち。



「〝行こうレディル行こうレディル行こうレディル渡りのアドウェナ――――」

「やめろッッ!!!!!!」



 俺は、火がついたように魔女から飛び退いた。



 治療ちりょう器具きぐを置いたたなに腰をしたたか打ち付け、共倒れになる。

 甲高い音と共に棚のガラス戸が割れ、俺に降り注いだ。

 魔女が冷めた目で、俺を見下ろす。



「やめろ……やめてくれ、」

「――それか、いっそこのまま死ぬか。発狂か自殺か、それとも他殺たさつがいいか?」

「黙ってくれッ……俺、俺はまだ、」

「そうだな。せっかく拾った命、大事にするべきだ」

「違うッ!!」

「違わない。選べ。今の・・平穏へいおんか、あの時の・・・・平穏か。お前に残された道はそれだけだ」

「――――ヘイオン?」



 ――――平穏?



 あの、



〝将来のこと、まじめに考えてるの?〟

〝んだよその目は。やんのかテメー〟

〝ガス爆発の線が濃厚のうこうだと言われているよ。犯人? はは……面白いこと言うね、圭君は〟

〝犯人がいたって言ってきかないんだよ。きっと混乱しているんだ〟

〝解らないガキだなお前も! もう警察はあの事故に関わらない。十年も前の事件性の無い「事故」なんかにはな〟



 あの地獄が、平穏だと?



 解っていない。



 こいつは全然、あの絶望をわかっちゃいないんだ。



 だったら刻み込んでやる。

 俺の力の限りを尽くして、あれと同等の絶望をこの女に味わわせてやる。

 めるのも大概たいがいにしろ。俺はプレジア最強と渡り合えるほどの力を身に付けたんだ。

 だから、



「――――貴様ァァァッッッ!!!!!」



 女一人絶望に叩き落とすことくらい、わけは無いんだぞ!!!!



 けもののようにえる。

 飛び起き、硝子がらす破片はへんを散らしながら、女に飛びかる。

 女は微動びどうだにしない。



 そうやって舐めくさっていろ。

 今にその目を絶望にめて――――



 ――――――目の前で、何かが、光った。



 体が止まる。

 目が釘付けになる。

 いな、それは光ではない。

 それは光よりもっと煌々こうこうとして、熱い――――



 オレカラスベテヲウバッタ、ホノオ。

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