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 ザパン、と荒々しい水音をたててフェゲンの視界に現れた生者せいじゃ

 泳げないのか、余裕なくせきこみながら必死で壁にすがりついたココウェル・ミファ・リシディアは、フェゲンの姿を認めて小さく悲鳴を上げ、また少しおぼれ始めた。



「……それを悪運と言うのか、強運というべきか。カカカ」

「うぃグッ!? ――け゜っ!?」



 ココウェルのあごを雑につかみ、水中で瞬転空アラピド

 くうり登ったフェゲンが城の入り口に降り立つ。

 舌をみ血をこぼすココウェルが声もなくその場にうずくまった。



「――そうか」



 すぐさま耳に入ってきたのは、いくつもの小さな悲鳴。

 次に目に入ってきたのは入り口近くで事切れた「釣鐘つりがね」と――――レヴェーネ・キースの姿。



「このような終結か。貴様との戦いは」



 落胆のにじむ声でフェゲン。

 そのけがは一目見て、彼がしばらく意識を取り戻すことさえないであろうと知れるほどのものだった。



 全身が焼け焦げ、火傷を通り越し炭化している部分さえある。

 エネルギーの圧に揉まれる中でズタズタにばらけた・・・・のであろうローブと一部肉体は血に染まり、しかし出血は少ない。恐らくは体が裂けた瞬間に傷口が焼け潰れたのであろうとうかがえた。



(……こやつはあのエネルギーに真正面からぶつかっていった。ここまで城下町を破壊してなお爆破することのなかったあのエネルギー弾がこの城で爆発し消えたのは、恐らくこやつの「隠し玉」によるものなのだろう。だからこの程度の被害で済んだ――こやつも城も、民間人も)



 疲れた目を民間人に向ける。

 生き残っている民間人がびくりと肩を寄せ合って壁際に下がる。

 その手前には、彼らを守ったのであろう王宮魔術師おうきゅうまじゅつし膝立ひざだちしたままうつむいている。

 恐らく死んでいる。



「……城の全壊を防ぎ、大勢の命を救った、か。まさしく英雄というやつだのう。惜しむらくは、皮肉にもそのおかげでわしらが生き残ってしまったことだが。カカ」



〝何故、お前ほどの頭脳を持つ者がこんな小火ボヤに手を貸す?〟



「……このような者ばかりであれば、あるいはこの国も違っていたのやもな」



 つぶやき、足元でうめいていた悪漢を長剣で刺し起こす。

 その悲鳴と光景を見た悪漢が次々傷だらけの体にむち打って起き上がり、フェゲンの声に従った。



「さあ起きろ。王を探せ。城はこの有様だ――案外もう、我らが国盗くにとりは成っているやもしれんが……せっかく守られた命だ。しっかり使い尽くすとしようぞ……カカカ……!」




◆     ◆




いつだったか資料で見た、爆弾によるキノコ雲を思い出す。



 俺の世代の者には到底とうてい現実感の無い、思いをせることしかできないそれが今……俺の視界遠く、しかしとてつもない近さでその姿を見せていた。



 次いで爆音。爆風。

 遅れて吹いた爆発の影響による突風が辺りのテントを激しく揺らし、外に砂嵐を巻き起こす。

 俺はフードを目深まぶかにかぶり、砂礫されきをやり過ごすしかなかった。



 あの「爆弾」が放たれた場所――――トルトらが戦っているという王都外縁がいえんの森。

 「爆弾」がぜた場所――――あれは確か城があった方向。



 城があった、方向?



(じゃあ、ココウェルはもう――)

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