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存外、表情豊かな奴なのだろうか。
ではなく。
こいつは、何だって俺にそんな
「…………すべてを一人で
「――ナイセストと?」
ヴィエルナが俺から視線を外し、顔を少し
少女の表情は、その黒髪で隠れて読み取れない。
「誰かに
「……それは買い
「え」
「俺はここにきて、自分が足りているなんて思ったことは一度もない。いつも足りなくて、欲しくて追いかけて……その繰り返しだ。というか、お前は良く
「……そういえば、私。ケイから一撃も、もらわなかった、ね?……手加減? おこった」
「今になって急に
「ふふ。
「だろうな。お前程の
「買いかぶりすぎ、だよ」
やはりというか、ヴィエルナは付いてきた……本の山を
置いて来いよ。
「……俺は常に足りていないし、
「そう……私も、解らない。ずっと
「何がだ?」
「……ううん。なんでも、ない」
「……?」
「……実技試験。ケイとナイセスト、同じブロックに。なるかも、しれない。……ついでに、私も」
「お前も?」
「
「…………というか、実技試験の組み合わせにそこまで風紀委員会を
「風紀は介入してないよ。出来るのは……ナイセストの家、だけ」
「それで
「ナイセストの、お父さん。……ディルス・ティアルバー、
「……
「……私、やっぱり君はナイセストに、勝てないと思う。ナイセスト、もうアルクスの正規メンバーにも勝てるくらいの、力。持ってるから。……それでも、戦うの?」
「当然」
「ナイセストが、
「言わなくても解ってるんじゃないかと思ったがな。俺はナイセストにも、風紀委員にも憎しみなんてない。勝敗にも
「……ただ、力を
「そうだ。力を試し、また引き上げるため……本で読んだが、どうやらお前たち
「……
「知らないな。
「…………そうだね」
ヴィエルナが、俺の目を見上げる。
「じゃあ、私は無茶するあなた……また、止めるね。今度は本気の本気で。私がそうしたいんだから、止められないでしょ?」
「好きにすればいい。だが望むところだ。今の俺にとっては、お前が一番の強い相手なんだからな」
「…………ライ、バル?」
「かもな」
「調子乗り」
「お前が言ったんだろ」
「
「過ぎた謙虚は
「
「そうとも言う」
「ふふふっ」
これまで聞いたことのない、
この
〝一人で立ちたいならせめて心配されないようにしたらどうなのッ!〟
まあ、今は仕方ない。
なにせ俺は、こいつらを突き放すだけの力を持たないんだから。
力を付けるまでの
まったく、
『おいおいおいヴィエルナ。なんなんだよその楽しそうな笑い声は。コラ』
――――本当に、
人を
『なんでテメーはこんな「
「『異端』は
『
……ロハザーが
というか前々から思っていたが、ヴィエルナの奴……
「……その男にだけは
「だぁっ! テメーもなんでヴィエルナを気安く呼び捨てでしかもお前なんて呼んでんだよッ!
「じろり」
「…ァマセくん」
…………
そしてこのソフトモヒカン、今一瞬で
「ごめんね、ケイ。ロハザー、昔から血の気、多くて」
「お前もなんでそいつを呼び捨てなんだよ?! お前らどういう関係?!」
「小さい頃から知ってるのか」
「うん。ロハザーと私、
「ペラペラと余計なことを……アマセテメェ、ヴィエルナに
「そんなことをして俺に何のメリットがある。意味がないことはしない主義でな」
「んなことしなくても女の子は寄ってきますってか?! ハッ、いいご身分だなケイ・アマセ!」
「
「はン、どうだかな! 周りを見てみやがれッ」
「……?」
人の多さで気付かなかったが改めて見てみると、
俺と目が合うと、そそくさと視線を
いつかもあったな。こんなこと。
「……見られてるみたいだな。気付かなかった」
「なかった」
「お前もかよ! ってか前に
「だが気にしないぞ。見られるのには馴れてる」
「おーおォ、またモテ自慢かよ! いい気になりやがって!」
「
「否定しろよ?!?!?!
「まあ、でも。ロハザーよりは、
「オメーもたまにはちょっとくらい
「
「
「ぬぐッ……お前ら二人して、この……!」
「ここは図書室だ。
「てンめェこの……!!」
…………いかん。つい
「クソっ……実技で当たったら見てろよテメェ。ソッコーで負かして腹抱えて笑ってやっからよ! ヴィエルナに負けるテメーは、俺にも勝てねぇってことなんだからな」
ロハザーが親指でグレーローブを指し、ニヤリと笑う。
確かに。忘れそうになってしまうが、こいつはヴィエルナと同じグレーローブだった。それを忘れてはいけないな。
「この間言ったと思うんだけど。私、負けたんだよ。ロハザー」
「お前はこいつと違って
「ううん。本当に負けたんだよ、私。こう、ガシッって捕まって、」
「つ……捕まって?」
「うん。捕まって、動けなくされて」
「動けなくされて?!?!?! おまっ……テメアマセオイコラァ!! ヴィエルナに何しやがったん――」
「うるさい。詰め寄らない。何もされて、ないったら」
「ぐぇゲ?! ひっ、ひっぱるなフードを!!」
…………だから、
いや、
「ヴィエルナ。お前も
「アマセ、お前まさかそうやって次から次へと女生徒を……」
「もう
「方法とメリットがあったらやるってか? お前マジフザけた奴だなッ」
……人は人生で、二割くらいの人には何をしても
きっとこいつは俺の人生において、
「あっ!! アマセお前、『ウィザードビーツ』のリリスちゃんにだけは手ェ出すんじゃねぇぞ? あの子
「ころすダメ。わるいくち」
「いふぇふぇふぇ?!?
「ゴメンね、ケイ。ロハザー、悪い奴じゃ、ないんだけど……たまにこう、ポンなの」
「誰がポンか!! ッ……まあいいさ。せいぜいあと少しあがいとけよ、アマセ。俺が
「勝手に言ってろ。別にお前に
「ははァン、そうやって逃げてろ逃げてろ。自分を正当化するしか能のない――」
「アンタ……何またケイに突っかかってんのよっ!」
――――
しばらくはシスティーナ達と
マリスタは
「あんた……アルテアス! ンで入ってくんだよ、アンタ今関係ねぇだろッ」
「友達がイヤな奴に突っかかられてイヤなこと言われてたら止めに入るに決まってんでしょーがっ。あんた達さぁ、そうやってケイにケンカふっかけるのいい加減やめなさいよ!
「友達……あんだけ
「まぁーたそういう難しいこと言う! 貴族だろうが何だろうが友達は
「……俺、本を探しに行きたいんだが。任せていいか、ヴィエルナ」
「ちゃんと
「………………」
「ああ言えばこう言いやがって、これだから自覚のねぇ貴族は……あ? 待てよ?…………はっ。なぁアルテアス。そういえばあんたは、今度の
「え、」
マリスタがピタリと固まり、――まもなく、何故かこちらに視線を向けてきた。
ロハザーが笑う。
「ハッ。ま、出ようなんて思うワケねぇか。こいつと
「ッ!……そこまで言うなら――っ」
…………
「マリスタ」
「なによケイ、今はちょっと黙って――」
「そんな奴に
「っ――」
「ん――ンだと?」
ロハザーが
……というか、図書室静まり返ってないか、いつの間にか。
無駄に空気を読んで黙り込んだ
余程ロハザーの、そしてマリスタの声が
まあ、いいか。
「感情的になっているときに、大事な決断をするな。よく考えてもいない選択を、その場の勢いで口にするな。お前の人生だ、お前以外の誰も責任を取ってやれない」
「…………」
「な、何イキナリ語り始めてんだよアマセお前……み、みんな見てんぞ?」
「大事なのはお前の気持ちだけだ。下らん
「………………」
マリスタが自分の
「うん。分かった……うん。ありがと。ケイ」
「礼を言われるようなことか。勢いで参加すると言って、その後で俺に頼られても面倒だから言っただけだ」
「はいはい。そういうことにしとくからお礼は受け取って」
「勝手にしろ」
「うん、勝手にする。って、なんでこんな周り静まり返ってんのさ! うわ
「…………こっ
「あんた!」
「ンだよ。あんたじゃねぇ、俺にはロハザー・ハイエイトって名前が――」
「ロハザー・ハイエイト。私、出るよ。実技試験」
「……何?」
マリスタがロハザーに笑いかける。
いい笑顔だと、思った。
「いつかは私も、アルテアス家を背負って立つ人になるんだからね。ケイと一緒にいるためだけじゃない。そりゃあ、どこまで勝てるかなんて分かんないけど……私は私のために、試験を受ける。誰にもバカにさせない」
「………………」
たじろいでいたロハザーが再び顔を険しくし、マリスタを、俺を
「…………いいや、馬鹿だな。なんにも分かっちゃねぇ。どこまで勝てるか分かんねぇだと?
「っ、私達はなめてなんか」
「言い返すな。
「そうさ、言い返したところでテメーらは俺らに勝てねぇ、結果は見えてる。
「ッ!」
「マリスタ、言い返すなと言――」
「ケイ」
「って……?」
「勝とう。絶対。頑張ろう!」
――勝ち負けに興味はない。
勝っても負けても、それが俺の
そう思ってたんだがな。
悪くないじゃないか。この
「……ああ。お前なら、ロハザーの鼻っ
「なッ……!!」
ロハザーの
怒り顔。決意。意志。
戦いへの
張り詰めた空間。
笑ってしまいそうだ。
たかが試験が――俺の世界で言う
だが面白い。
本番が楽しみだ。
「あらあら、ふふふ。若い子たちはお盛んねぇ」
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