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――そんな所に響く、パチパチという気の無い
図書室に居た
白衣の下には
「ぱ……パーチェ先生。どうしてここへ。もしかしてし、指導……」
「だったらちゃんと指導担当の先生が来てるわよ。私は医務室に置いてる、
「あ……そ。そうですか」
「ええ。まさかこんな面白いことになってるなんて、想像だにしなかったわ」
ド
俺を通して
「でもハイエイト君、君はちょっと挑発し過ぎ。もうちょっと人に優しくなさいな、
「あ、は、はい。すんません」
ドギマギと返事をするロハザー。目線が完全に胸である。……悲しいかな、気持ちは少し
ではなく。
「……早く用事をお
「あら、アマセ君。また君なのね。まったく、
「
「
耳と頭に同時に言葉を投げつけて、魔女は不意に近づき、
「暴れん坊はベッドの中だけにしなさい。昨日のように」
「――――――――?!?!?」
――――なんて、
『――――――ハァ?!!?!??!』
ロハザーとマリスタの声が重なる。
ヴィエルナだけは何のことやら解っていない様子で首を
「ちょ――ちょちょちょ、ちょっっっっっとケイ!!!!!! ああああん、あんたねぇ!!!! 散々
「たらし……?」
「テメェアマセテメェ!!!! ぱぱぱっぱ、パーチェ先生っていやぁ一部
「じごろ……?」
「おい聞いたかよ、やっぱりアマセの奴そういうことしてんだってよ!!」「い、今パーチェ先生、何て言ったの……?」「つ、つまり、ケイ君とリコリス先生は、その……そういうことよ!」「うっそだろ、パーチェ先生のあのカラダがあんな顔が良いだけの転校生のモンに……?!?!」「おいしっかりしろ! 意識を保て!」「許せねぇあの野郎、俺達のパーチェ先生を!」「あぁ、ぜってぇブチのめしてやる俺達リコリスFC《ファンクラブ》の怒りを思い知らせてくれる!!!」「そんなことしたってリコリス先生はあんたたちのものにはならないでしょうに……」「ていうか、生徒と教師がってヤバくない? ウケるんだけど」「でもリコリス先生とケイ君、なんかお似合いじゃない? 美男美女、映えるわ~」「いーえ絶対認めない! ケイ君は私達のアイドルなんだからっ」「はいはい落ち着いて」「『異端』の奴、やっぱり
――フラッシュと
ライブ会場もかくやと言わんばかりに、急激に
息もぴったりに詰め寄ってくるロハザーとマリスタ。
どこから現れたのか、カメラを構えてこちらにしこたまフラッシュの雨を降らせる恐らく報道委員の面々。これまたどこに居たのかこちらに向けて怒鳴りながら、人
そして気が付けば、リセルの姿はどこにも見えなくなっていた。
…………マジで氷
もう辛抱
俺は文字通りの
……ホント、たった一瞬で何が起きたんだ。
あの魔女、何か変な
「!! ケイ・アマセがいないぞっ!」「探せッまだ近くにいるはずだ!」「逃がさないわよケイぃっ」「私見ました! わ、私のお尻を触っていきましたっ! きゃっ☆」「なにぃ?!?!」「あの
群衆の足元をもがくようにして進み(信じられない。なぜ俺は図書室で
呼吸さえ
「こ――こっち!」
声の主に引っ張られるままに、人海に
「だ……大丈夫? アマセ君」
「……助かったよ。パールゥ」
床に
「ど、どこか痛いところはある? 少しなら――」
「大丈夫。特にケガは……」
指に、染み入るような痛みを感じた。
見ると、大した怪我ではないが指を
……むしろ、これで済んだのは幸いだったのかもしれない。
「あ……血、にじんでるね。やってあげる」
「いや、これくらいなら自分でも」
「やってあげるっ」
パールゥに手を取られる。
少女は怪我をした指に手を
短い時間で光は消え。
指には、傷の
「……上手いね。俺がやってもこうはならないよ」
「た、たまたまだよ。私ネクラだから、細かい作業とかしか出来なくて」
「ネクラとは関係ないじゃないか、それ。ここまで
「そ。そ、そうかな……?」
「そうだよ。――ふう。
上半身を起こし、パールゥに向き直る。
「改めて
「……あの
「み、みんな
「ファンクラブって何………………何にせよ、
「ううん、大丈夫。……けど、これからはもう、
「助かったって言ったじゃないか。感謝してる」
「ぁぅ」
「ん?」
「ぁいや、ううん、なんでも! ごめん」
「どうして
「な、何でも……あはは、私、つい
「自分で言わないんだよ、そういうことは。言ってるとホントになるから」
「あ、うん……ご、じゃなくて。えと……」
「ありがとう」
「あ……ありが、とぅ」
「うん」
「……ぁ…………」
「さてと。外が落ち着くまでは……ここに
きゅ、と、床に
「――パールゥ?」
「『礼なんて必要ない』……って言わないの? マリスタに、言ったみたいに」
「! 、……?」
「アマセ君、使い分けてるんだね。その……自分に親しい人と、……し、親しくない、人とで。言葉、というか。口調を?」
「い――いや。あれは別に、親しいとか」
「ち。違うの?! あぃ、ゃ、違ってたならごめ――――」
ばばば、と両手を振りながらごめん、と言いかけたパールゥが、言葉を飲み込むように口を閉じ、大きく息を吸い込む。
再びこちらを見た目に宿るのは、良く
「わ、私っ…………アマセ君と、友達になりたいのっ」
「え――」
「ぁ……なりたく、って。えと」
「――――」
「っ、だからそのっ!…………もし、な、何か悩みとか、あるんだったら……ちゃんと話して欲しい、というか。わ――私には言葉、使い分けたり、しなくてもいい、よ、というか……」
「……………………、」
パールゥは、ヴィエルナとはまた違った意味での
顔を赤らめて、少し汗ばんで、あたふたとしながら。
そうまでして何を
「っ、あはは、何言ってんだろ私、えへへ……ごめん、変な
「別に、この口調は友情の証でも何でもない。気にするだけ
「――ぁ、」
「……何だ。気に入らないなら戻すぞ」
「う、ううん! そっち、そっちがいい、ですっ!」
「
「ごっ、ごめんなさい…………」
どこか嬉しそうに謝り、パールゥが力なく笑う。しかしその顔を突然
「あの……。やっぱり、出るの? 実技の……試合」
「……ああ。そう心配しなくていいよ」
「し、心配だよっ。だって……アマセ君はまだ入学したてで、レッドローブなんだよ? なのに、」
「レッドローブだとか、グリーンローブだとか。自分はネクラだとかおかしいとか。そういう言葉で自分を
「で、でも実際に、キースさんにだってボコボコに……」
「俺も引き際は
「じゃあ、どうして」
「力を試したい、それだけだ。ロクに知りもしない地の学校に入学した身だ、今自分がどの
「……どうしてそこまで頑張るの?」
……このままズルズル質問されても面倒だな。
「別に。特にそこまで目標があるわけじゃない――
「あ――」
パールゥの声に構わず立ち上がり、入ってきた
「アマセ君。そっちじゃなくて、こっちがいいよ。
「……そうか、そんな所があったか。
「うん。鍵とかは特に何もいらないよ」
「
「私、応援してるから!」
「!」
反射的に、振り返ってしまう。
その行動が予想外だったのか。パールゥは次の言葉を思い付かない様子で口だけを小さく動かし、
「――――ずっと、見てるから」
そう言って、顔を赤らめた。
「――――ありがとう」
使い古された言葉だけを返して背を向け、司書室を出た。
――よく解らないイレギュラーはあったが、ひとまず意識の外へ置く。
実技試験まで、あと一ヶ月と少し。
詰められることは、まだまだある。
備えよう。出来ることは全てやって。
『いたぞっ!!! ケイ・アマセだッ!!!』
――――
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