7

「うん。痛みはもう、ほとんど」

「よかった……ホントによかったよ。あのときは、もう……本当にダメだと思った」

「……ケイは、どう?」

「体の傷はもう、なんとも。リシディアの医療いりょう技術ぎじゅつにはまったく驚かされたよ。内臓を手酷てひどく傷つけられていたのに、一週間とかからず完治だからな。……だからこそ、お前の傷の酷さがわかるよ、ヴィエルナ。ここまで尾を引くなんてな」

やみ属性ぞくせいの『侵蝕しんしょく』、傷の回復を邪魔してるって、言ってた。今は魔力回路ゼーレを元に戻すリハビリ、やってるの」

「……つくづくとんでもないな、闇属性とは」

「でも、」



 食うように、ヴィエルナが続ける。



「手足が、元通りくっついたのは……斬られ方・・・・が、良かったからだろうって」

『――……』



 ……俺とパールゥは、押し黙った。

 黙る以外出来なかった。



 「斬られ方がよかった」。



 だから、何だというのだろうか。



 続かない。

 その言葉の先には、何も続きようがない。

 斬られ方が良かろうと悪かろうと、彼女が四肢ししを切断され、達磨だるまとなって血の海に沈んだ事実は、死のふちをさ迷った事実は変わらない。



 ヴィエルナも、それ以降言葉を発さない。

 彼女自身、解り切っているからだろう。

 こんな言葉に続きは無いと。



 「斬られ方がよかった」。



 だって、その言葉に続きがあるとすれば。



 「だから、死なずに済んだ」。

 「だから、ナイセストは悪くない」。



 そんな、あからさまな矛盾むじゅんはらんだ言葉だけではないか。



ひどい、人だったよ」

「っ、」

「パールゥ?」



 しぼり出された言葉に、ヴィエルナがぴくりと体を反応させる。

 パールゥの目がおずおずと、だがしっかりと、ヴィエルナの目をとらえた。



「ティアルバー君は……もう決着はついてたのに、もう勝ってたのに……あなたを斬ったの。あなたを手足を斬り落として、ついでに首筋だって斬り裂いて、そして……心臓だって一突きにしようとした。ひどいよ。まともな人のやることじゃなかったっ。だから……」



 ……ヴィエルナの表情を見て、パールゥが一度言葉を切る。



 だが、必要ない。

 きっと話していたのが俺でも、



「私は……ティアルバー君がいなくなってくれて、良かったと思う」

「…………」



 ヴィエルナは、何も返さなかった。

 表情も、元に戻して・・・いた。



「…………」



 ……こいつは意外と、感情が表に出るタイプだ。

 隠すんだったら、リストを握った手の力もゆるめておけという。

 人のことを言えた口ではないが。



〝知っていたさ、そんなこと。お前が俺をしたっていることも。俺を変えたいと願っていたことも。そして……お前がそれをあきらめていたこともだ、ヴィエルナ〟



 ……ナイセストは、ヴィエルナの気持ちを知っていたと言った。

 諦めたことも、知っていたと言った。



 知っていただけなんだろうか。

 それとも、何か明確な「引導いんどう」を渡したのだろうか。



〝もし、あの子がアマセ君に気持ちを伝えてきたら……一生懸命、言葉を選んで、応えてあげてね。……いつもみたいに、不愛想ぶあいそう無下むげにだけはしないで〟



 ……もし想いを告げられて、それを明確に拒絶きょぜつしたとしても、想いが残るというのなら。

 気持ちに応えることに、何か意味があるのだろうか。



 分からないままであった方が、良いこともあるのではないだろうか。

 一方的に思いを積み重ねて、



〝やくそくするから!〟



 それをくずされるのは、相手にも自分にも大きな傷を作る。



「アマセ君だって、ティアルバー君に殺されかけた。私、本当にもうダメかと思ったんだよ。あんな怖い魔術・・――」

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