6

「マリスタの許嫁いいなずけなんだ」



『――――――』



 ――――



 それを聞こえなかったと取ったのか、金髪碧眼きんぱつへきがんの男は再度、



「いいなずけ、だよ。マリスタ・アルテアスの、ずっと昔からの許嫁いいなずけ



 聞き違えようがない明瞭めいりょうな声で、そう告げた。



 ――マリスタがサイファスの頭を気持ちよくはたいた。



「いって?!?」

「あ――あのねえ!!! あんたそういうアレをその、なん――急に言わないでよっ!?……あっ、」

「いでで……久しぶりだってのにヨウシャないな、ほんと。ちっとも昔と変わってない」

「ごっ……ごめ、そんなに強く叩いたつもりは、」

「いいんだって、やっとお前のとこに帰ってきたんだなーって感じがしてるよ」

「だ、だからそういう――」

許嫁いいなずけェッ?!!?』



 ゴバ、とエリダ、シータがマリスタの眼前にせまる。

 マリスタがぎょっとしてたじろいだ。



「うひゃ?!」

「あっああぁっあん、あんた……ンなことあたし一言も聞いてないわよっ?!?!」

「許嫁がいたの?! いつから!?」

「し、知らないよっ、うんと昔からなんだから!」

「そう。僕が六歳、彼女が生まれたばかりのころだったかな。だから俺にとってもうんと昔なんだ、許嫁に決まったのは」

「じゃあ、ずっと家族ぐるみの親交があったってことですか?」



 片手をあごえ、腕を組んだシスティーナが壁に寄りかかったまま言う。

 サイファスのポニーテールがれる。



「といっても、今のマリスタを見ればわかる通り、ここ数年はめっきり会えていなかったんだ。マリスタはいつからかプレジアの寮生りょうせいになってしまったし、俺は俺で免許めんきょの取得とか家のこととか、色々忙しかったからね。だから嬉しさもひとしおだ」

「だ、だからそういうことを……」

「でも、おかしいな。お義父とうさんとお義母かあさんには伝えてたはずなんだけど。もしかして、寮生活りょうせいかつでほとんど実家には戻ってないとか?」

「も、もも戻ってるよ! 戻んないと父さん怒るし!!」

「そうだよな、お義父さん厳しいし。でも、それなら聞いてない? 俺のこと」

「き……きいた、ような。聞かない、ような」

「……相変わらずだな、そういうとこは」

「じゃ、じゃ――じゃあ。マリスタあんた、その人と結婚けっこんするの?」

「けっっっこォん?!!??!」



 エリダの問いにマリスタがいやにオーバーに驚き、面食らう一同。

 シータが耳をふさぎながら顔をしかめた。



「な……なんであんたが驚いてんのだわよ。そりゃ許嫁なんだから当たり前でしょうよ」

「そそそ、そりゃあ?!?! そうですけど?!?!?」

「テキトーにキレてんじゃないのだわ!」

混乱こんらんしてるんだと思う」

「そ、そりゃ混乱もするだろうぜ……なぁ、テインツ」

「ビージ。今話しかけてやんなって」

「あ?」

「はは……まあ、当初は俺も戸惑ったし。マリスタが戸惑とまどうのも無理ないよ。親に決められた関係な上、こうして数年会えないってのもザラだったから。なあ?」

「あ……う。うん……」

「ところでマリスタ。そのライブチケット、なんで二枚も?」

『――!!!!……』

「あ…………あ、や、これ、は」

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