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 ――マリスタから広がるようにして、場に寒気が満ち満ちる。

 馬鹿、俺を見るなお前ら。どうしろってんだ俺に。



 大体、俺はライブなんぞに毛ほども興味は無い。

 ただ――――そう、パールゥが二枚持って・・・・・・・・・・いたから・・・・咄嗟とっさに行くと答えただけだ。

 パールゥの好意は最近度が過ぎている。俺が何も言わないのをいいことに、わざとグイグイきているふしまである。

 だから、代わりにマリスタのチケットを受け取ったまで。

 きっとパールゥの持っていた二枚目のチケットは、俺を誘うためのものだっただろうから。



〝もし、あの子がアマセ君に気持ちを伝えてきたら……一生懸命、言葉を選んで、応えてあげてね。……いつもみたいに、不愛想ぶあいそう無下むげにだけはしないで〟



 だから、これで上手くいくはずだったのに。



 こうなったら、俺から断りを入れるか。私用を思い出したとか何とかで。

 いやでも、ここでそれを言えば結局「マリスタおれをライブに誘っていた」という事実はこの場に――この男に残ってしまうわけで。

 いや大体、そもそも、なんで俺がマリスタの許嫁だのなんだのという家庭の事情に配慮せねばならんのか。俺には別にやましいところなんぞ微塵みじんも無いのだ、余計なことに思考を割くくらいならいっそ――――



「ちょうどいいじゃない。困ってたんでしょ? 二枚目のチケットどうしよう、って」



 ――その声が。言葉が。



全く取り返しのつかないほどに、この場の空気をさらい、き乱していく。



「………………」

「………………」



 マリスタが声の主を――――パールゥ・フォンをみる。

 パールゥもマリスタを見て――――いつもとまったく変わらないひかえめな笑顔を、見せた。



 パールゥの嘘事態ようやく飲み込み始めた面々によって、場がやっとこおり付き始める。

 いや、それはすでに――凍結とうけつなどでは済まされない、凍傷きず



 飛び出んばかりに目玉をひん剥いた風紀ふうきの男連中とエリダ、シータ。

 真顔に驚愕きょうがくを乗せたシスティーナ。



 なんなんだ。

 何が起こってるんだ、今。



「ああ、余ってるのか? じゃあぜひ使わせてもらおうかな」

「……え、なに、が」

「え? 何がって……って、」



 サイファス・エルジオが流石さすがに俺と他の奴らの表情に気付き、



「ど――どうしたの、みんなも。なんだかすごい顔を――」

「あ――ああ! いいアイデア・・・・・・じゃない、マリスタ!」

『――――!!?』



 言葉いだのは、システィーナ・チェーンリセンダだった。



 一挙いっきょに彼女へと向けられる色取り取りの目。マリスタなぞ最早もはや無の表情だ。

 システィーナはその目に激しく動揺どうようし、胸元で手を遊ばせながら、やがて何かを思いついた様子で手を打った。



「あ、でも……マリスタ確かその時間、学祭がくさいの仕事があるんじゃなかったっけ?! ねぇ?!」

「えっ、あ、え、あ?」

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