伏線――――1-1、27-1、43-1、73-4

「ぐぐぐううゥぅッッ……!!」

「――!」

「! リリスティア、油断するな! そいつと力比べは――」



 陥没するほどに障壁しょうへきによって壁に押し付けられていたバンターが、力尽ちからずくで身動みじろぎし始める。

 力押しは不利。俺の声を聞くまでもなくそう悟ったらしいリリスティアが空いた片腕を振り――別の巨大障壁をバンターにてバンターを重撃じゅうげき、城を破壊しながらバンターを吹き飛ばす。



「きゃあっ!?」

「っ、兵装アルメぐァ゛ッ……の盾ス・クードッ!」



 いやに酷くなり始めた呪いを押してなんとか障壁を展開、雨霰あめあられと降り注ぐ瓦礫の山からココウェルを守る。

 瓦礫と砂埃すなぼこりに埋め尽くされ、最早リリスティアとバンターの姿は見えない。

 ただ破砕音だけが、未だ二人が戦闘中であることとその規模を伝えてくる。



 何だというんだ、リリスティアのあの急激な戦闘能力の伸びは?

 感じられる魔波の質までまるで違う。

あの魔波――そう、あの魔波は、



〝けいにーちゃん〟



「ゴぁ……!!」

「ケイ……ッ!? ゥ、ぁ゛ア……!!?」



 ココウェルのへし折られた腕を取り、腕を矯正・・したまま服の上だけを凍結させ、応急的に腕を固定する。



 所有属性エトスの解らないこいつの腕を丸ごと覆って凍結させれば凍傷と壊死えしの危険がある。

 足と腹の傷口を覆っている闇の魔法の便利さよ――いや、ナイセストの練度をたたえるべきか。

 つくづく俺は及ばない。



 そんなことを考えられたのもつかの間。



「ッ!?」

「ふあッ……!?」



 隣に物凄ものすごい勢いで落下してきた何か・・による衝撃で、障壁ごと体が吹き飛ぶ。

 石の玉座の傍に転がった所で障壁が消失。

 砂煙が晴れ――現れたのは、



『!!!』



 ――うつせの姿勢で腕を後ろ手におさえられた、バンターと。

 それを抑えるリリスティア。

 一瞬、リリスティアが組み伏せられているのではとドキリとした。

 が――直後、別の意味で体が総毛そうけち始める。



 リリスティアの戦闘スタイルは恐らく「魔法使い」だ。

 ヘヴンゼル学園前で鎖の男と戦った時も、彼女は素手のまま、闇の魔法だけを頼りに戦っていた。



 そんな彼女が今、その膂力で――満身創痍とはいえ――体格が二回りも三回りも違う大男を組み伏せている。

 恐らくは障壁での力押しを交えた、体術によって。



 解らない。何も解らない。

 解らないが――認めるしかない。

そんな力もあるのだと。



 リリスティア・キスキル。

 バンター・マッシュハイル。

 そしてきっと――



「……終わりです。どうか静かに……眠ってください」

「ぐ――ゥァアっ!? あ、が、くそ、やめろ――」

「――おやすみ・・・・

「ぁ゛――――!!??!?」

「!――?」



 ――心臓が、無理矢理跳ねさせられたような不快が身を貫く。

 リリスティアが、何か魔法を使おうとしているのがわかる。



 だが何だ――今度は何だ、この感覚は・・・・・

 いや違う、俺はこれも――この感覚にも覚えがある・・・・・

 これは確か、いや気を逸らしすぎるな、目の前にいるのは最強の、あぁ呪いが五月蠅うるさい、くそ、集中を――――












「         だあれ?   

    あな              た」











「――――ッ!!!!? ぅあッ……!!?」



 ――リリスティアが、熱い薬缶に触れたかのように腕を跳ねさせ。



 解放されたバンター――――?――――が、ゆらりと立ち上がる。

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