圧倒――――リリスティア・キスキル




◆     ◆




アドリー・マーズホーンが目を見開き、再び半壊状態に陥ったヘヴンゼル城を見上げた。



「ごほ、げほッ……ンだってんだよ、このっ……バカでけえ、魔波まははっ……!?」



 腹部と口から大量に出血するファレンガス・ケネディが、気絶しているアティラス・キースを水から引き揚げながら息も絶え絶えに言う。



「ってて――げほ。おい、誰か応答しろ! クソ――感知はできてるか、この魔波!』

『……はい。見ています』

「!! おぉシャノリアちゃん、あんた――ちゃんと生きてたかッ! ぐ――」


「傷が深いのでしょう。そう急いてしゃべることはありませ、ッ……」

『!? おい、どうした? あんたもやっぱ傷が――』

「……ひとまずこの魔波は、あの褐色かっしょくの大男のものではないと、断言できます」



 ――だがそれ・・だけだ。



 空覆う暗雲のように膨大で果てしない魔波。

 シャノリアのかすむ視界の中で、空間をゆがませてさえいるような気がする莫大ばくだいな魔力の波動はしかし、今あの城の中に残っている誰の魔波でもない・・・・・・・・



 思い当たる節は一つしかなかった。



(――あなたなの? ケイ……!!)




◆     ◆




感じたことのある・・・・・・・・、魔力だ。

 魔波でなく直感で、そう感じていた。



 視界に細く長い黒髪の束が揺れた。



「!」

「アマセ君。王女を」



 いつの間にか真横へ移動してきていたリリスティア・キスキルが、俺へ折られた腕の痛みにうめくココウェルを預ける。

 瓦礫がれきからい出るバンターに、視線だけは向けたまま。



「ぐ、ぶ……――ガキ、」

「時間をかけられないんです。だからごめんなさい、」

「ガキがぁあああああ――――――――あ……!!?」

『――――――』

「加減はしません」



 規格外の、魔力のかたまりが。



 てのひらを上にして軽く握られたリリスティアの拳の中へ、光の筋をこぼしながら収束していく。



界閃リダ



 差し伸べるようにして、開かれた掌から。



 バンターの身体を飲み込まんばかりの、光の奔流ほんりゅうが放たれた。



「う――ゥウウウぅううううあああああああああぁぁぁぁああああァァァァア!!!!!?」



 咆哮ほうこう



一瞬、その魔波の奔流を受け止めた・・・・・バンターが、悲鳴にも似た咆哮をあげながら後退、そのまま体勢を崩して光に飲み込まれた。



 光? 否。

それはまさしく俺の世界で言う――



〝…………カメハメハ・・・・・



「……メチャクチャな……」



 腕の中で聞こえるココウェルの声。

 目の前でリリスティア・キスキルが、プレジア魔法魔術学校の義勇兵ぎゆうへいコースベージュローブの女学生が放ってみせたその光線ビームは城の壁を突き破り、今やっと細く収束して視界から消え失せた。バンターと共に。



 消し飛ばした?

 いや――



「――化け物。界閃リダの直撃から抜け出すなんて」



 リリスティアが跳ぶ――否、飛ぶ・・

 脚力を一切使わず空へ浮遊していくその様は、間違いなく旋転空テルクス・バージのそれ。

 風属性最上級魔法とされる、自在に空を飛び回る大魔法。



 それを、あいつが?



 視認。

 部屋の天井付近で、光の奔流から抜け出たらしいバンターが淡い煙の筋を引きながら俺達を睨み――壁へ陥没かんぼつするほど押し付けられる・・・・・・・



『!?』

「ぶ、ォ――」



 ――いや違う。リリスティアが手を伸ばしている。

 何か仕掛けている? そう、何か視認できないような透明の攻撃を――



 ――見えない攻撃?

 それはまるで俺の――



「――障壁しょうへきだ」

「え? 何の話――」



 ――間違いない。よくよく感知してみればあからさまだ。



 リリスティアの奴――俺の盾の砲手エスクドバレットとは比較にならない規模で、障壁での攻撃を仕掛けている……!

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