14



 頭を打ちのめす温かなショックに声がようやく追いつき、テインツの口かられる。



 その問い返しが聞こえたのか聞こえなかったのか。茶髪の少女は忌々いまいましそうに小さく舌打ちし、そのままの姿勢で口を開いた。



「借りを返したいって言ったでしょっ! ホラ、なんかないの!?」

「い、いや……君、今なんて」

「聞こえてないワケないから言い直さないのだわこのバカッ! いいからさっさと私に借りを返させなさいっての!」

「……………………いいのか?」

「え?――――――え゛っ?!?!」



 予想外の返しに正面を見たシータがギョッとする。



 テインツはその顔をくずし、うつむいて――――両手を膝の上で握り締めながら、涙のしずくを落としていたのだ。



「ちょ……どういう、」

「僕は…………『君を助けた』って、胸を張っていいのか?」

「っ……二回言わせるなって言ったのだわッ! さっさと泣き止んでよ恥ずかしいのだからねっ」

「っっ――――そうだね。ごめん、ごめん。ありがとう」

「あのねっ、念押ししておくけど! あんたのためじゃないのだわっ。借りを返しておかないと私が気持ち悪いってだけだから! だから謝ったり感謝したりしなくていいの、あんたは!」

すごいな君は。尊敬する」

「そ……何言ってんのだわ!? 私は別に――――……」



 反射的に言い返そうとしたシータが言葉を切り――――まばたきをして、テインツを視界にとらえ直す。



「……『変わりたい』って。私だって思ってるのだわ」

「え?」

「あー……私、ホラ。すぐ人を皮肉ったり、感情的になって、ケンカしちゃうから」

「うん。酷いねあれは」

「(こいつ……いやだめなのだわシータ)……つまり、そういう自分をなんとか、どこかで変えたいと思っていたのっ。あんたともその、ケンカしちゃったし、その……暴言吐いてばっかりで、ちゃんとした話が出来てなかったから。ちょうどいい相手と機会だっただけ、そう、偶然あんただっただけ! それだけなのだわ、うん」

「……凄いよ君は、やっぱり。感情的な部分を変えようなんて、なかなか出来ることじゃない」

「っ……やっと涙は止まったようね。さあ、借りを返したいからさっさと頼み事なりなんなりしなさいよ。あんまり時間も無いのでしょ」

「――――!」



 目尻めじりに涙のあとを残しながら、テインツはシータへ小さく笑顔を作り、うなずいた。



 ……直後には、その心からの笑顔もき消えたのだが。



(ま、待って。そんな急に『頼み事』と言われても……)



〝この作戦が成功するには、見るのもうんざりするような大きな大きな壁があります。一つに――〟

〝新しい、風紀委員長。『平民』から選ぶの、どうかな〟



「――――、」

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