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「まったく、つくづくぞくな連中です。何か他にやることがないのでしょうか」

「気楽なもんだわよね。貴族でも『平民』でもない、当事者とうじしゃじゃない人たちはさ」

「気が合いますねぇっ。やはり私達は同族なのですねシータっ☆」

同族嫌悪どうぞくけんおって知ってるかしら? あんた」

「う、うーん。私も一応当事者じゃないけど……その話については同意どういかな。野次馬やじうまが過ぎるわよね――そんな単純たんじゅんな話じゃないのに」



 言いながら、エリダにヘッドロックを決められているマリスタを見るシスティーナ。

 状況に付いていけないエリダを置いて、マリスタは――スペース出入り口でヴィエルナと何やら話しているロハザーを見て、小さな笑みを浮かべていた。

 システィーナも胸をで下ろすようにして、小さく笑った。



「…………すごいな。ハイエイト君は」

「シータ?」



 システィーナにられマリスタへ、そしてスペースのロハザーへと視線を移したシータがポツリと言う。

 システィーナが応じた。


「私は……あんな風に、すぐには変われなかったから。今朝だってあの調子だったし。……ほんと、ねたましいくらい」

「……変わろうと思えばすぐ変われるわよ。シータなら」

「え……」



 スペースを見下ろしながらシスティーナ。

 シータは少し目を見開いて彼女を見たのち、顔を険しくしてうなだれた。



「変にフォローしなくていいわよ、ありがと」

「フォローしてるつもりなんてないわ。だってもう、答えが出てるじゃない。あなたは」

「答え?」

「言ったじゃない、今。『ねたましい』って」

「……そ、それが」

「変わりたいと思ってるなら、変わるのなんて一瞬。そう思わない?――――いい機会だから、ここらでひとつ、言葉にしてみたら?」



 ポカンとするシータ。

 ニコリと笑うシスティーナ。

 シータはくちびるをへの字に曲げながら、居心地いごこちが悪そうに視線をらし、



「……………………変わりたいな。私も」



 そう、小声で言った。



「…………ん? えっっっ。えっ?」



 マリスタが頓狂とんきょうな声をあげ、身動みじろぎをする。

 腕の中で奇妙きみょうに動かれたエリダがぎょっとしてマリスタを見た。



「うわっ。な、なんなのよ急に。自分の頭の悪さに気付いたの?」

「うっせぇわねギャグやってんじゃないの! あれ見て!」



 マリスタの指を追う一同。

 スペースには、すでにロハザーの姿はなく――ちょうど、ヴィエルナ・キースが中へと入ってきたところだった。

 ナタリーが目を細める。



「へぇ。戦うのですね、キースさん。ナイセスト・ティアルバーと」

『えェっッ!?!!!?』



 エリダとマリスタが目をく。



「そ、そんな……だって私始まる前にティアルバー君相手の時は棄権きけんしようって伝え……あれ!!?」

「も、もうちょっと後で言うつもりなんじゃ――」

棄権きけんの宣言はスペースに入る前が自然ですよ」

「スペースに入ること自体が、そもそも戦意の現れ……って感じだわよね、確か」

「えええええ、し、シータそれマジ――――って」



 マリスタの視界のはしで、人混ひとごみが割れる。

 吸い寄せられるようにそちらを見たマリスタ達には目もくれず――ゆらりと現れた天瀬圭あませけいは、スペースと観覧席かんらんせきを分けるさくに手を置き、スペースへと視線を下ろした。



『………………』

「……ウッザいですねぇ、ホントに」



 みょう沈黙ちんもくをナタリーが破る。

 沈黙も当然。

 圭は誰が見てもわかるほどに――近寄りがたい、張り詰めた空気をまとっていたのだ。



「ケ……ケイ?」

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