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 エリダの制止も手で払い。

生来の性根しょうねを発揮し、シータがマリスタに迫る。



「その時は一緒になって騒いどいて、今度は騒いだ人達を責める? どんだけ底なしの頭空っぽだったら言えるのかしらそんなこと。たな上げ過ぎるでしょ自分のことだけ。そんなのを義勇なんて言わないの、身勝手っていうの。なんで私達がアンタの身勝手に振り回されなくちゃいけないのよ」

「シータやめな、」

「大体、アンタの考えや正義感を押し付けられてもただただ冷めるだけなのだけど? 一人で一体何を小綺麗こぎれいな理想を思い描いてるか知らないけれど、アンタの熱意を私達にまで強要しないでくれる? 何かするなら一人でやりなさいよ無駄だと思うけど。アンタが四大貴族イチ無能なのだけは、ここにいる皆が解ってるんだから!!」

『!!!!』

「シータッ!!!」



 エリダがシータを無理やり振り向かせ、胸倉をつかみ上げる。

 パフィラと他数人が、おどおどとエリダをいさめた。

 たまりかね、ナタリーがマリスタの傍に歩み出た。



「対案も無いのによくもまあべらべらと他人の中傷を吐けるものですねぇ、シータ? まさしくアルクスの言うがごとく、プレジアは差別と偏見へんけんめであることの証左しょうさといったところでしょうかねぇ?」

「っ……ここまで一言もしゃべらなかったくせによくまあしゃしゃり出てきたものだわねっ。マリスタの言うことだからかばってるんでしょうけど、」

「やめなさいってシータァッ! ここでケンカして何になるのよ!!」

「ナタリーも私と同じ気持ちなんじゃなくって? じゃなかったらとっくに、この場をかせるような献策けんさくをしてみせてるんじゃないかしら!!」

「黙っていればベラベラと勝手な事を……!」



 ナタリーが歯噛はがみし、シータを無視してマリスタを見る。

 うつむいたマリスタの顔から、一滴いってきの涙が光り落ちた。



 シータを含む大勢は、この件がプレジアとリシディアの内戦につながりかねないことを知らない。

マリスタと同じ熱意を求めるのは、どだい無理な話であることをナタリーは承知していたのである。

しかも、それら秘密を秘密のまま話していないのはマリスタ達だ。

秘密は秘密のまま、でも熱意を私達と同じくしろ、とは道理の通らない話だ。



「マリスタ。気に病むことはありません、シータたちは――」

「うん。慰めなくて・・・・・いいよ、ナタリー」

「――え?」

「――――その通りッ!」



 光る涙玉と共に。

 マリスタが顔を上げ、また大声を出す。

 その目にもう、涙は残っていなかった。



「シャノリア先生、ティアルバー君、イグニトリオ君。四大貴族の中で、私が一番馬鹿なのは誰が見たってわかるよ」

「マリスタっ、」

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