9
――ナイセストには理解できなかった。
あの
アルテアス家の一人娘。
一族のたゆまぬ魔術
最悪。
ティアルバーにとってマリスタ・アルテアスは、最悪の女。
それが今更、なぜ貴族の
原因ははっきりしていた。
(――――ケイ・アマセか)
ナイセストの理解が及ばないのは、彼女の変節そのものである。
会場がどよめいた。
ざわめきの正体は、眼前。
ナイセストの目の前に、浅黒い肌を持つ一人の少女が立っていた。
グリーンローブをまとったその少女は、一目見て緊張していると分かるほどに体を固くし、息の上がった状態。
それでも、少女はナイセストを強く睨みつけ、スペースへと入っていく。
少女の
その少女がスペース内に入ったことの意味を、理解しない者はなかった。
会場の
(ケイミー・セイカード)
少女の顔を、ナイセストは覚えていた。
二ヶ月ほど前、ケイ・アマセとビージ・バディルオン、チェニク・セイントーンの
またも、ケイ・アマセの名がナイセストの
「………………」
ゆっくりと歩みを進め、スペースへと入るナイセスト。
その腰には、一振りの大きなナイフが下げられていた。
「私もっ、」
震えを必死で
「アルテアスさんのようになりたいから」
「………………」
実力の
ナイセストは一切の反応を示さず、また一切の構えを取らず、意識を思考へと
「それでは、第三試合――始め!」
(……なんでもない。結果は
精一杯の速さでナイフを構えて地を蹴り、
ナイセストは十分にそれを見切り、
(――
避ける。
「だぁッ!!」
避ける。
「たあァっ!」
避ける。
「おおォ――――!!」
試合時間は一秒、また一秒と過ぎていく。
(どいつもこいつも)
観衆が言葉を失う。
一瞬で終わるはずの戦いが終わらず、
ナイセストはケイミーを、ただ見ていた。
(どいつもこいつも、変わり始めている)
――どいつもこいつも?
貴族と「平民」の力関係に一石を投じたのは誰か。
貴族と「平民」の激突を、表面化させたのは誰か。
〝面白いではないか〟
ディルス・ティアルバーの心を
〝面白いぞ、ナイセスト。
(――――誰だ。俺の行動さえも、変えているのは――――――!)
――
各所で小さな悲鳴が上がる。
口を閉じたまま、大きく呼吸をするナイセスト。
彼の目の前には、まさに
受け身もとらず、顔面から地に
その顔は毛穴という毛穴から
スペースの障壁が解ける。
飛び降りてきたペトラがすぐさまケイミーを抱きかかえ、
「勝者、ナイセスト・ティアルバー。……しかし、
トルトが
ナイセストが目で応じる。
「今の魔波、
「………………」
「あぁそうとも、殺しも認められてるさこの
トルトがスペースを去る。
その意味合いは、明らかにこれまでと違っていて。
(……もう、疑いようもない)
力の入らない足を
(――――動かされている。ティアルバーが、たった一人の
「――――」
「!」
入り口に、ヴィエルナ・キースが立っていた。
「…………」
「…………」
いつもと変わらない、無表情。
ヴィエルナの試合は、第四試合だ。
第三試合が終わったのだから、彼女がここに居ても何の違和感もない。
彼女はいつも通り、
「…………」
――――ヴィエルナは、何の
「…………」
ナイセストが
それはまるで
(……
闇に沈む少年の心を、
「……いや。
「――――――――――」
「――――――――――」
赤き金色は、未だ
(その渇きで、俺からも奪おうというのか。ケイ・アマセ)
〝我々のような、全てに関し非の打ちどころのない一族になると、どうも『敵』に欠けるのだ、ナイセスト〟
〝お前ならば――その馬を
視線を切る。
ナイセストは、小さく口の
(
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