5

「……」

「これは陛下。まずはご無事で何よりでございます」

「黙れディルス! 貴様、大人しくしておれとめめ、命じたのを忘れたか!」

「ご息女様、ココウェル・ミファ・リシディア殿下の『王命』により、落ちた身分ではありますが国家の危機にはせ参じた次第でございます」

「……あの……小娘……!!」

「ご心配なさらずとも。我々は有事が収束次第、再びばくに――」

「待ちなさい。ナイセスト・ティアルバー」



 父の悪癖・・を感じ取ったナイセストの仲裁ちゅうさいを、遮ったのはココウェルだった。



「お爺様じいさま。ディルス・ティアルバーとナイセスト・ティアルバーは」

「もうよい黙っておれ」

「わたしが今生きているのは――」

「うるさい、うるさい。もうおお前は喋らずともよい」

「彼らは間違いなく国を滅亡から救ったのです――わたしに触るなっ!!」



 諦めず食って掛かるココウェル。

 祖父への道を、まるでとびかかる子犬をあやすような手つきで「どうどう」と言わんばかりにはばむ大柄な親衛隊達を一喝いっかつし、王女は王に続ける。



「ここにいるほとんどの者達がその証人となってくれます。彼らがいなければわたしは――――わたしはぞくに屈し、この国を滅亡させていたかもしれません。それほどにこの者達の功績は大きいのです。ですからどうか、お爺様、」

「うん、うん。わかった、わかった。ティアルバー親子を捕らえよ」

「ケイゼン王ッ!!!」

「うううるさいのう。頭が痛い、もうやめてくれ本当に。そそもそもこのような話、このようなひ非常時にろくな考えも無しに話すことではない」

「!」

「もっとおお落ち着いた時には話すべきだ。そそれも解らんのだろう、お前は」

「――では彼らを拘束するのはやめてください! 不当です、わたしの話を聞く前からことを進めるなど――」

「見よ、見よ、見よ。周りを見よ」

「え……?」



 老王に促されるまま、ココウェルが周りを見る。

 そこにはケガをした者、肩を貸された者、運ばれる者、運ぶ者、治療をする者――戦禍せんかを収束させるために動いていた人々が、王族の口論の行く末を不安げに見守っていた。



「お前が現場をかき乱しておるぞ。そのせいで作業が止まっておるぞ。国民が苦しんでおるぞ。助かる命が助からなくなっているぞ。それにも気付けておらんのだろう?」

「そ――、それはお爺様も同じ――」

「この非常時に犯罪者がの野放しになっていること、そこに国民が不安を感じていないと申すか?」

「!」

「その不安を取り除く一番の選択肢は?」

「――――」

「答えよッッ!!」



 老王の怒声に、ココウェルが身を一瞬すくませる。

 暗い瞳で、ケイゼンは王女を見下した。



「今この時。国民の不安を増大させているのは。治安を悪化させているのは。私的な感情で現場を引っ掻き回している、無能は。誰だ?」

「…………………………………………わたし、です………………」



 王女が答える。



 その消え入りそうな声は、しっかりとその場の全員に届き。



 老王は、大きく大きく大きく、ため息を吐いてみせた。



「……もう黙っておれ、頼む。さあ手を止めるな、さっさと拘――」

                

                            ゼン

                    









 ――――マリスタ・アルテアスは。








 音も無くぬるりと立ち上がった復讐者褐色の大男を見て、すべての臓器を潰された思いがした。



『!!!!!!!!!!!!!!?』



 誰もが一瞬、数瞬遅れる。

 直立不動に、褐色の男が空を飛ぶ。

 引き寄せられるように蛇のように、ぱっくり真っ暗な口を開け。

王女の肩口を飛び越えて。

老王の喉元にとびかかる。

 すべての音と空気が消え去った瞬間の中、
















 褐色の首を、幾本もの細剣レイピアが貫いた。

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