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「あなたの前で、こんなこと言いたくは無いんだけど……アルクスも一枚岩いちまいいわじゃないの。特に、地位と環境のことに関してはね――――面倒な話よ」

「じゃ、じゃあ」

「でもそれと今回のこととは関係ない。プレジアを守るために王女が使えるなら利用する、それだけ。先に私達の日常をおびやかしたのは相手だもの。王女を利用する大義には十分。王女を利用するとしたら、それはプレジアの人々を守る大義のためよ。アルクスの地位を高めようなんていう私心ししんのためじゃない」

「…………」



 ――その沈黙ちんもく好意的なもの・・・・・・として受け取り。

 ペトラはやっとエリダと目を合わせ、同時に肩の力を抜いた。



「っていうか、あんたはそんなこと考えなくていいんだよ。昔から言ってるでしょ、『荒事あらごと』からあんた達を守るのは私の――」

「いつからそんな風になっちゃったのよ」

「――え?」



 予想していなかった切り返しに、思わず素の声をあげるペトラ。

 エリダの深緑しんりょくの目が、うっすらと悲痛のにじむ表情が、真っ直ぐペトラに向けられた。



王国騎士に憧れてた・・・・・・・・・頃の姉さんだったら言わなかったと思うわよ。『プレジアの人々を守る』だなんてスケールが小さいこと・・・・・・・・・・。だってそれ、裏を返せば『プレジア以外の人は助けない』ってことでしょ?」

「……!」

「あたし達が怖がってるのはそこよ姉さん。『助けたい人たちだけを助ける』――――それってさ、世間では『ワルモノ』って言うんじゃないの?」

「ワ――――何を言い出すのエリダっ」

「だってそうじゃん! 姉さんがどう思ってるかは知らないけど、今アルクスの人達がやってることは身内の利益になることばっかりだよ! ワルモノじゃなかったら何なの!?」

「……こんなところで善悪の話はしたくないけど、あんたには解ってないだけなのよエリダ。全ての人を救うなんてできないの。助ける為には、取捨選択が必要なことだってあるのよ」

「それもごまかしだからね」

「え――――え?」

「解ってないのは姉さんの方じゃない。アルクスは『救えるだけの人を救う』義勇兵ぎゆうへいだんなんでしょ? でもアルクスの人達が今やってるのはそうじゃない。アルクスは今、救いたい人だけ・・・・・・・を救おうとしてる!」

「!」

「しかも、理由はリシディアでの自分たちの評価を押し上げたいから……それで国の兵士かもしれない人たちと戦ってどうするの? 王女がプレジアにいるならどうするの?」

「そ、それは」

「何をするか解りそうなもんだわ。だからアマセは……マリスタ達はアルクスに何も言えなかったんじゃないの? 信用できなかったんじゃないの!?」



〝学生風情ふぜいの部屋に? まるで寝込みを襲うような早朝に来て? 大の大人が寄ってたかって暴力で? 学生風情たった一人を制圧する?…………出来の悪い冗談ですね〟

〝どう信用しろと言うのだ。――――差別さべつ偏見へんけんと、傲慢ごうまん浅薄せんぱくに満ちた温床おんしょうで肥え太ったお前達何の力も無い生徒達に!!…………一体何をどう期待して信じろというんだ〟

〝でももう今は変わったんです!! いいえ、変わろうと頑張ってるッ!! 苦しみながら今までの自分と戦いながら変わろうとしてるんですッ!! それを、それを――――謝ってくださいよ今言ったことッ!!!〟



(…………全くだ。この状況でどう信用しろというんだ、アルクス・・・・を)



「アルクスのやってることは、戦争につながりかねないこと。その上プレジアの人をダメな奴らだってレッテルりして、完全におさえ込むために実力行使までして。信用できるはずないじゃん」

「……戦争につながるかどうかなんて解らないわ。私達の行動も、もちろんあなた達の計画もね」

「でも避けようと努力してる。マリスタ達は――あたしは、リシディアそのものも守りたいから。だから、姉さんをこのまま行かせるわけにはいかない」

「……………………。一つだけかせて、エリダ。そこまで私達を信用してないのに……どうして私に作戦のことを話してくれたの?」



 問われ、エリダが視線を落として目を閉じる。



「覚えてるの。とてもよく」

「……何のこと?」

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