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 ――鋭い声音がペトラの言葉を切らせる・・・・

 きょを突かれたペトラが無意識に上げた視線の先には、影におおわれた顔の中できわって光る深緑しんりょくの目。



 その目に気圧けおされたのは、一体いつぶりのことだったか。



「エリダ、あんた・・・……」

「そう、違うよ姉さん。あたしは協力したくて姉さんを呼んだんじゃない。協力して欲しくて・・・・・・呼んだの」

「協力――――私があんたに・・・・・・?」

「うん。協力して欲しい、あたしに。あたし達の作戦に」

「お断りよ」

「…………」

「私はアルクスの兵士長へいしちょう司令官しれいかんの一人なの。そして今回の事件からあなた達学生を弾き出したのは、同等の地位にいるもう一人の司令官。この意味が解らないあんたじゃないと思ってたんだけど?」

「うん、解るよ。そこを曲げてってお願いしに来たの」

「……バカにしてるの?」

「してないよ、本気。あたしは本気よ、姉さん。だから――――話すわ。全部・・

「――? 全部?」



 ペトラの目が再度妹をとらえる。

 エリダは姉の目を見つめたまま大きく息を吸い込み、こみ上げる何かをおさえ込むように吐き出しながら目を閉じ、開いた。



「全部話すわ。今あたし達がやろうとしていること――――無血むけつ完勝かんしょう友情ゆうじょう大作戦だいさくせん、のことを」




◆     ◆




「ビラ、もうバラまいてますからねー! いいんですよね、マリスタ!」

「うん!! ルール説明はもうやってるー!?」

「セイントーンさんほかが説明に当たってくれてます、そっちは心配いらなさそうですよ」

「よっしゃおっけー!! あとは段取だんどりの細かいとこつめててナタリー! ケイミーたちとテインツ君たちが戻ってきたら一緒にお願い! 私今言ってた問題片付けてくる――」

嘆願書たんがんしょ出来たわよマリスタ! 後はあなたとイグニトリオ君の署名しょめいだけ!」

「ありがとシャノリア先生っ!」

「いやいや、僕まだ署名する気は更々さらさらないよ、アルテアスさん。さっき僕が言った『ながだまへの安全策あんぜんさく』は結局どうなってるの? それが確認できないことには――」

「もう少し待ってて! 必ず、必ずエリダが間に合わせてくれるからっ! だってそれがそろったら私達――――マジであの襲撃者たちを止められるんだからっ。プレジアの学生達全員でっ!」




◆     ◆




「…………成程なるほど。無自覚の一般人をイベントのていで参加させての、戦力と陽動ようどうねた…………王女・・奪取だっしゅ作戦」

「……うん」

「使用魔法は魔弾の砲手バレットのみ、参加資格も魔弾の砲手バレット会得えとくしていることだけ……」

「そう。で、流れ弾での年少クラスの子とかのケガを防ぐために、アルクスが使わないでためこんでる、防護ぼうご魔法まほうほどこされたローブを――」

「断る」

「――え、」

「情報ありがとう。まさか王女がプレジアにいたなんてね、それじゃあね」

「ちょ――――待ってよっ!」



 エリダがペトラの前へと回り込み、教室の出入り口をふさぐ。

 ペトラはエリダに目を合わせず、淡々と切り返す。



本末ほんまつ転倒てんとうもいいとこだわ。私達はプレジアの人々やあんた達を守るためにも組織されてるのよ?」

「わかってるよ」

「しかもプレジアに王女がいるだなんて――――使いよう・・・・によっては切り札にもなり得るじゃない」

「それを怖がってるんだよ」

「問題ないわ。適切に利用すれば――」

そこ・・じゃないって! みんなが怖がってるのはアルクスのことだよ!」

「――……私達を?」



 ペトラの瞳が揺れた。



 ように、エリダには感じられた。



「そう。マリスタ――――アルテアスとイグニトリオ君に聞いたわ。義勇兵ぎゆうへいコースの人達がどんなことをアルクスに言われたか。本当の目的は何か」

「本当の?」

「アルクスはこの事件をきっかけに、自分たちの地位や環境を改善しようとしてるんでしょ? そのための交渉の材料として王女を使う。そうなんでしょ?」

「違うわ」

「。え、」

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