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「だからこそせない。実質の司令官たるアルテアス理事長りじちょう学長代理がくちょうだいりに――教職員連中を出し抜いてまで急いで就任しゅうにんさせ、もっともらしい理由を・・・・・・・・・・つけて・・・襲撃者事件――――リシディアと戦う口実となる可能性の高い事件の捜査権そうさけんを奪った。そして、何か情報を持っているらしい俺を何が何でも吐かせようと、拷問などという悪にさえ手を染めている…………俺にはあんたたちが、まるで進んでリシディアと戦いたがっているように見える」

「……惜しまれるほどの頭の回転だな。それで身元不明でなければ・・・・・・・・・

「……そうか。安心したよ」

「何?」

「俺を拘束こうそくし、ここまで丁重ていちょうもてなし・・・・をしてくれたんだ。クラスメイトの安全も危ういかと思っていたが……そんな理由があるなら、他のものは捕らえられてはいないだろう。監視かんしくらいは付けていらっしゃることだろうが」

「立場を忘れるな。お前は今――」

「こっちの台詞せりふだ」

「――まだ話すことがあるのか。それだけくっちゃべっておいて」

「話をらすなよ。リシディアと戦いたがっているという俺の推測をあんたは否定しなかった。あんたらがアルクスの総意そういとしてリシディアとの戦争を望んでるんだとしたら、プレジアは本当にあんた達の言う義勇ぎゆうが何をいただくのだろうと疑うだろうぜ。そこまで戦いの意志を隠さないんならついでに教えてくれよ。あんたら、一体誰の飼い犬・・・・・なんだ?」

「身元不明に話すと思うか。敵かもしれん餓鬼がきにこうまで大っぴらに話をする時点で、自分にもう明日は来な・・・・・・・・・・いもの・・・と思わなかったのか」

「…………何?」

「プレジアという箱庭でのうのうと暮らし、危機感がにぶったようだな、ますますアルクスとして不適ふてきだ。生兵法なまびょうほうとはお前のようなものにこそ使われる言葉だろうな――――持ってこい。こいつは何かを知っている」

「――――っ」



 ガイツが誰かに指図する。

 体がにわかにざわつき始めた。



 もう明日が来ない?

 持ってこい?

 ……まずい、こいつらがまさかそんな――――



「――言ったろう。大義の為の悪は正義だと。さらばだ、身元不明。少々脳は溶けるだろうが、余生は穏やかに過ごすがいい」

「やめなさい」



 ――聞き覚えのある声が、部屋のよどんだ空気を止める。



 のどに響くような心臓の早鐘はやがね

 聞いたことのない声色ではあったが、今の声は――



「何をしに来た教員」「ノックも無しにドアを開けるな!」

「ふざけるな。人殺しの現場を見過ごすほど耄碌もうろくはしていません……生徒の口元から手をどけなさい、バルトビア君」

「…………アドリー・マーズホーン」

「どけろ」



 ――魔法生物学担当の教師、アドリー・マーズホーンが、普段ふだんとは打って変わった低い声で小さく告げる。

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