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「――――――ッ゛ぁ゛あッ!!!」



 声よりも先に、腕が反射でその焼きごてを首筋から押し退け。



 異世界に来てからのどの戦いよりも無様に、ただ本能だけでその痛みから遠ざかった。



「ぁっはは……無様だな。人間。まあ、こんなお遊びは拷問ごうもん程度でしか役に立たんのだがな」



 素の笑いをゼタンの皮でおおい隠し、適当てきとうなアドリブを入れるギリート。悪役め、こいつ絶対使ったことあるぞこの熱を。拷問で。

 何か言い返してやりたかったが、首をわずかに動かすだけで首筋にえぐれたような痛みが走る。



〝にいちゃん〟



――久しぶりに感じる火傷やけどの痛みだ。



「……で? それだけか?」

「それはこっちの台詞だ。まだ出し切ってなんかないんだろう。全力を見せてみろよ、ゼタンッ!」

「…………」



 何か言いたそうな目で、ギリートが薄気味うすきみ悪く笑う。

 直後、



 いつか見たオレンジが、俺の目の前を埋め尽くした。



〝影に至るまで焼き尽くしてやるからよ――――!〟



 ――胃が痛む。

この上、痛みの呪いまで騒いでたら終わってたな。



落ち着け。

 予想出来ていたことだ。テインツの魔装まそうけん――炎帝剣えんていけんヴュルデも剣身けんしんから炎を吹き上げていた。このくらいは――――



 烈火れっか



「ッ!!!!」



 ――一瞬遅く出た精霊の壁フェクテス・クードが炎の波を断絶し、にじり寄ってきた炎の残滓ざんしを振り払って後退、



 背中に手。



のろくない? なんか」

「ッ――――!!!」

「う、お――――?」



 ――咄嗟にギリートの腹部に不可視ふかしの弾丸――盾の砲手エスクドバレットを撃ち、軌道きどうのズレた魔装剣を右の氷剣でなんとか弾き返す。

 すぐに左の剣で上から――



「止めたつもりか? それで」

「ッ!!?」

けろ。『イグネア』」



 ――――眼前の空間が、熱にゆがみ。



 爆風が、全身を襲った。




◆     ◆




『ッッ!!?』



 障壁しょうへきを超えてれ伝った魔力まりょくの残響が、舞台裏ぶたいうらの人々の目を見張らせる。

 シャノリアが青ざめてナタリーを見た。



「客席からの映像出してッ!!」

「もう確認してます、連絡も取りました。客席には炎も魔波まはも届いていないとのことです」

「良かった……ッ、あの子たちは――――」

「なんであんなの許可したんですか先生ッ!!!?」



 静かな、しかし激怒した声はリフィリィだ。

 猛然もうぜんとシャノリアに歩み寄った彼女は、引き裂かん勢いでシャノリアの服につかみかかる。



「メチャクチャですよ……メチャクチャじゃないですかこんなのッ!! あれだけ持ってらした劇作への情熱はどこへやってしまわれたんですか!? 舞台裏のみんなやお客さんに被害でも出たらどう責任取るつもりなんですか!!?」

「ちょ、ちょっとリフィリィ押さえて――」

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