3

「後で聞くわ」



 シャノリアは服を握るリフィリィの手に手を重ね――視線は映像の煙幕えんまくに送ったまま、平静に言う。



 やがて映像をおおけむりは晴れ――――舞台ぶたい肉眼にくがんでも確認できるようになる。



「私も、ここまでなるとは思わなかった。でも――もう止められない。どうかみんな、次の演出の準備をして。お願い」

「し、シーン動きます!」

『!!』

「~~~~!!」



 演出のタイミングを計る役目を負う生徒の言葉に、リフィリィがどこにもやり場のない気持ちを顔ににじませる。

 シャノリアは少しだけ彼女に顔を伏せて謝意を示すと、タイミングを伝えてきた生徒に合図を送る。

 舞台ぶたいは続行。演出の合図だ。



「…………」



 ――離れた所からリフィリィを見ていたシータが、いまだ舞台裏のすみに固まって話すマリスタ達に視線を移す。



「…………」

「――それよ。それだよパフィラっ! それならいけるっ!」

「どんなもんだいっ!!」

「まァそれならいけそうだが……結局は人手ひとでをどうやって確保するかだな」

「…………マリスタ」

「ん? 何シータっ。ごめ、ケイとイグニトリオ君はめっっっっちゃ気になるけど、話は後に――」

「提案があるのだわ。今まさに話してた、『人手』のことで」

「――はい?」




◆     ◆




熱い。



〝にいちゃん〟



熱い。



〝母さん!!!――――父さんッッ!!!!〟



 火が。

火が。

火が。

火が。

火が火が火が火が火が火が火が火が体に!!!!!!!!!



愛依めいぃッッ――――!!!!!〟



「ご、ぼァ゛……――――水神の御心リクオル・ディバンッ!!」



 脳が揺れる。体が転がる。

 転がった先で――――巨大な冷たい弾力に、激突。



 無我夢中で剣を立て、俺はその水泡すいほうを突き破った。



 き止められていたかのような激流が俺を刹那せつな、包む。

 目を開き、黒煙こくえんに染まった周囲を認識する。



 すぐに水は流れ。

 舞台からこぼれる前に、全て魔素とし消し去った。



 魔法で創り出した自然元素は、意志で消すことが出来る。

 だが――そんな幻のような力によって現実的に・・・・負った傷や破壊の爪痕つめあとは、元に戻すことが出来ない。



 いっそ、この傷も戻ってくれればいいものを。

 だが、あの距離きょりで爆発を起こしたのだ。あれなら奴も多少は――



「成程。とっさに作った水泡の水で、体の致命的な延焼えんしょうを防いだか。存外多彩な魔法を使うのだな」

「!?」



 声のした方に目を向ける。

 しかし眼前は依然いぜん煙の幕。

 見えるはずが――



「――――いや。そういうことか」

「はは……察しが良いな」



 煙幕が晴れていく。

 前方の床で、何故か小さな爆炎がきて燃え盛り――――それをみ消すようにして、汚れ一つない白い装束しょうぞくを身にまとったギリートが鷹揚おうように姿を現した。



「貴様が氷と『仲が良い』ように、オレも火炎とはちょっとした仲でな。所有属性エトスなどと呼んではいるが、ともすると我々も精霊のように……一つの属性を司る精神体でしかないのかもな」

「……炎にそうそう焼かれない上に、煙の向こうも見渡せるのか。便利なもんだ」



 ――急に、煙が晴れていく。

 見れば流れは舞台裏へ向けて。

 誰かが煙を吸引してくれているようだ。有難ありがたい。



「はは……さて、」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る