33



 目を見開き、クローネがぶ。

 彼のくつの先を、熱の泥がぜた。

 け落ちた靴先くつさきを確かめる暇も無く、辛うじて無事な足場へと着地する――



 眼前にゼタン。



「!!!」



 振るわれた剣に応じるも、り負けたクローネがマグマへと弾き飛ばされる。

 騎士は空中で転回、空気を蹴って素早く次の足場に着地そこにもすでにゼタン。



「チッ――!」



 高速回転させた青い剣でゼタンの体勢を崩し後退させるクローネ。

 神が別の足場へと移動。

 突如吹き上がったマグマの柱が神を隠し、



 柱が真っ二つに裂けた。

 


 斬撃・・が飛来する。

 刹那合わせたクローネの魔剣からも魔力の斬撃がほとばしり、爆風。

 飛び散ったマグマを避けるように二人が飛び――ゼタンの居る足場へと、クローネが着地した。



「――――」

「おおぉぉ――――っ!!」



 赤と青の剣光けんこうが交差する。



 手数は圧倒的にクローネが上だ。

 とはいえゼタンの剣速けんそく神業かみわざの域。

 後手に回ったクローネには、背後の青い剣を振るう余裕など無い。



 ――そして、現実的にも。



「――――」



 全く無感情に、休むことなく剣を振るうゼタン。いやギリート。

 その目はここでないどこか遠くに向けられているようにくらく、これが演技であることを忘れてしまいそうになる。



 いや、実際意図的に・・・・忘れているのではないか、こいつは。

 でなければ――――この手に握る剣が、またも・・・折れそうになっていることに説明が付かない。



 間違いない。



 挑発だ、これは。




◆     ◆




「……シャノリア先生?」

「イグニトリオ君……!」



 シャノリアが目を細め、舞台上のゼタンとクローネを――――圭とギリートを見る。

 パールゥはその表情と言葉の意味を読み取れず、彼女の名を呼んだ。

 舞台上では次なるアクションが始まっており、パールゥの目には苦しそうなけいと、あくまで役に打ち込んだ無表情を貫いているギリートが映る。

 再びシャノリアに視線を戻しながら、パールゥは彼女をにらんだ。



(……きっとケイ君は呪いがうずいてるんだ。あんなに苦しそうなのに、追い込んだディノバーツ先生がどうして保護者づらしてるんだろう。イグニトリオ君も、あれだけキツそうなんだから気付いたって――――)

 


 ――――折れた圭の剣が、床に転がったときのことを思い出す。



 やがてパールゥは、ギリートが気付いていないはずがないと気付いた。



「先生、イグニトリオ君は」

「剣を打ち合わせた時の音で分かる。彼は――――また・・やる気でいる」

「……何を考えてるの……!」



 静かな怒りをギリートに向けるパールゥ。

 しかしシャノリアの視線は、すでに圭へと移っていた。



(……練習のとき、ケイが劇の筋書すじがきを無視してイグニトリオ君に突っ込んだことがあった。実技試験のとき、ティアルバー君にだってあんな・・・感情の乱し方をしなかったケイが)



〝焦りや自棄ヤケじゃない。今の俺に見える、確かな目の前の道なんだ〟



 ――シャノリアの目には、圭があのとき・・・・と同じ目をしているように、見えた。



 何か、駆け引きが行われている。

 劇として演技を交わしながら、二人は全く別の次元で何かを交換こうかんしている。

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