3

「…………良好です」

「っ。りょ、良好、ですか?」

「ンむ」



 コルトスの言葉に目を白黒させるシャノリア。

 リセルが質問を継ぐ。



「問題がないということですか? コルトス先生」

「そうじゃないンだ。若干じゃっかんだけれど、幻覚の症状も見て取れる。ごく軽いけど、これは……間違いなく『痛みの呪い』の症状しょうじょうなンだよ。生命力が底を尽いた末期患者・・・・にみられる症状。生命力が弱りすぎて、強い呪いにもその程度しか反応できなくなるンだ」

『ッ!?』

「死に――ひんした?」



 ――自分の声が遠く聞こえる。

 医師コルトスは俺の表情を見て、あわてて首を横に振った。



「君が死にそうだと言っているンじゃあないよ。君は至って健康で……そう、悪く見ても軽い風邪かぜのような状態だ。だが……見たことが無いよ。君みたいな症例しょうれいはね」

「っ……大体、何なんだ『痛みの呪い』って。死ぬこともる魔法なのかっ。医者だけじゃなくて、あんたたち教師陣にも認知されているような大病なのか!? そんな病気にどうして俺がかかった!!!?? ナイセストから出てきたアレは、ナイセストはどうなったんだ!!!!!!!!!!!!!!!!?」

「先生。症状・・です」

「うン」



 ――――突如、全神経に衝撃が走った。



 ロハザーかららった電撃でんげきにも似たその力は瞬時に俺の全身を駆け、俺は狂った猫のように体をビクつかせ、ベッドに倒れ伏す。

 そこから実に数秒、四肢ししわずかに動かすことさえ叶わなかった。



「なっ……あっ……!!?」



 なんとか視線を動かし、コルトスを見る。

 指。

 コルトスは俺にただ人差し指を向け、指先の青い光を俺の腕に差し入れていただけだった。



 あんなもので、俺の身体を――



「痛かったろう。私に怒っているかい?」

「……お、まえ……今何を……!」

「……よかった、戻ってきた・・・・・みたいだね」

「!……? 戻ってきただと?」

「ああ。私に怒れていること。それは、人間の正しい感情の動きだから」

「……『痛みの呪い』は、人の感情の動きに影響を及ぼすのか?」

「しかしそうか、感情の乱れによる『発作ほっさ』は起きるか……さて、どこから説明したらいいのやら。君のことは、この一週間の間にざっと聞いているよ。自分の出自しゅつじも、分からないンだって?」



 シャノリアを見る。

 彼女はごく小さく、首を横に振った。どうやら、本当のことは話していないらしい。

 コルトスに向き直る。



「その辺りは、あんたの聞いた通りだと思う。それよりも……一週間もつのか? あんたがここに来て?」

「今は実技じつぎ試験しけんから一週間後よ。ケイはずっと眠っていたから、驚くのも無理はないわね」

「……少し、話を聞いてくれるかな。ケイ・アマセ君」

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