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「何だと思う? 可能性は三つ考えられるよね」

「一つはさっき否定したばかりだろ、ここで」

「そうだね。ティアルバー家だけがすべての『痛み』をバラいた、その可能性は低い。となると他の可能性としては、」

「広く一般いっぱんに、『痛みの呪い』が売り買いされた可能性か。だがそうなると、」

「そう、加害者として捕まった者がゼロなのはおかしい。十人いたら大体一人はバカなのが人間のさがってやつだし。誰も彼もが完全かんぜん犯罪はんざいを成しげられるような器じゃないはずだ。現実的じゃない……じゃあさ。『痛みの呪い』を買ったのって……誰なの?」

「…………」



 ……ティアルバーの逮捕たいほ以前いぜんまで、「痛みの呪い」を使ったことで逮捕された者はゼロ。

 なのに、被害はリシディア全土から報告されている。



 つまり、『購入者こうにゅうしゃ』は…………



「……完璧かんぺき情報じょうほう統制とうせいが取れるほど、大きな組織?」

「例えば大貴族・・・のような、ね」

「!……」

「ちょっと、後退あとずさらないでよ失礼だな。僕はちかって潔白けっぱくだよ。自分に足がつくようなこと言うわけないじゃないか」

「……胡散うさんくささを脱臭だっしゅうしてから言え」

「それにそうなると、怪しいのは大貴族だいきぞくだけじゃない。巨大ギルド、アルクスという名の私兵しへいを抱えるプレジア、隣国のアッカス、バジラノ、タオ、そして…………リシディア」

「――――」



 ――――ティアルバーの逮捕たいほ以前いぜんまで、「痛みの呪い」を使ったことで逮捕された者はゼロ。

 なのに、被害はリシディア全土から報告されている。



 そして、『無限むげん内乱ないらん』は……魔女と、リシディアの戦争だ。



「アマセ君。ケイ君ってば」

「…………何だ」

「ねえ、どうかな? 僕、最近よくわからなくなってきてるんだよね。誰がウソつきで、誰が正直者なのか。誰が敵で、誰が味方なのか。誰に何を話すべきなのか、誰を信用すべきなのか」

「……お前、」



〝こういうメンツだし、話しておくのも悪くないと思って〟

〝もう少し信用してくれると嬉しいのだけど〟

〝君達を信用してるんだ。ある程度ね。だから話してみようと思う〟

〝言ったろ、『信用してる』って。だから僕は、君にこそ情報を共有したいんだ〟



 …………思えば、ギリートはことあるごとに「信用」を口にしていた。

 常に何かを試すような素振りで、人に接していた。



 頭が痛い。

 わからない。



 ギリート・イグニトリオ。お前は一体、俺に何を望んでいる?

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