9

「確かに、『いたみののろい』は『魔女まじょり』の道具として、文字通り無限の痛みを人々にきざみ付けた。今でも王都おうとヘヴンゼルには、『痛みの呪い』で精神を病んだ人たちがリシディア全域から大量に収容しゅうようされているんだ――じゃあここで問題。『痛みの呪い・・・・・の術者はだーれだ・・・・・・・・?」

「……? それはだから、お前も言った通りティアルバー――」

「言ったでしょ。彼らは開発者・・・だ。術者じゅつしゃじゃない。それとも何、アマセ君は『痛みの呪い』の被害者、すべてがティアルバー家によって生み出されたものだと思うの?」

「…………」



 ……リシディア王国は、周辺しゅうへん諸国しょこくに比べれば小国しょうこくだ。いや、小国になった・・・と言う方が正しいか。



 北の大国、アッカス帝国。西の軍事ぐんじ国家こっかバジラノ。過去リシディアはこの両国によって度重なる侵攻しんこうを受け、領地りょうちけずられてきたのだ。



 とはいえ、それでもリシディアの領土りょうどは――――俺の世界でいう、アイルランド程度ていどはある。日本の六分の一ほど、北海道にも満たないくらいの大きさだが、それでも人ひとりの――――ひとつの一族程度の集団にしてみれば、広大な土地であることにそう変わりはないはずだ。人口も六百万人に達する。決して少なくはない。



 そんな国で、一つの魔術が全国的に被害を及ぼす……つまり、全国に広まっているとするなら。



〝あんま知らないけど。開発した人が、普通の人も使えるように作ったんじゃない? だから世界中でバカ売れしてるってさ、お金持ちだよー〟



「――――ティアルバーから、魔術まじゅつを買った人間がいる?」

「……ご明察めいさつ。具体的には、魔術の発動を書き記した巻物スクロールを売りさばいてた、ってことじゃないのかと思うけどね。回数制限はあれど、それを使うだけで誰でも手軽に『魔女狩り』を行うことが出来た、ってことさ。でもアマセ君。そんな話、今まで聞いたことある?」

「何がだ?」

術者が捕まった・・・・・・・、って話。ニュースとか新聞、よく使ってるでしょ? 勉強の一環いっかんで。一度でも目にしたことあるかな」

一々いちいち俺を試すな鬱陶うっとうしい」

「はは、バレた?……無いんだよ、一件も。被害者の話は山とあるのに、加害者かがいしゃの話は個人の特定に至らない。クローズアップされるのは魔術の恐ろしさだけで、そこからは迫らない。不自然なくらいにね」

「つまり?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る