18



 ……視界のはしが、白くかすむ。

 それが良くない兆候ちょうこうであるとわかっていながら――どこか、霞んでしまえとさえ思っている自分が居た。



 黙る。

 もっと聞かせてくれ、パールゥ。



「自分勝手なのもいい加減にしてよっ。まるで初めからいない存在みたいに私を無下むげにしないでよっ。悲しいよっ、苦しいよっ!」



 目を閉じる。

 受け止める。



「こんなこと言いたくないけどっ……どうして私に深く関わろうとしてくれないの? どうして私に深く踏み入ろうとしてくれないの? 私に『嫌い』だって伝える、たったその一言のための一瞬でさえ、ケイ君は私に踏み入ってくれようとしないっ! パールゥに真剣になってくれないっ!! どうしてなのっ!?」



〝いつもみたいに、不愛想ぶあいそう無下むげにだけはしないで〟



 ……『いつもみたいに』。

 やっと気付いた。そうか、俺は、



〝無意識でも天然でも何でもねぇ、お前は意図的に人の心をたぶらかしてもてあそんでる不誠実なクズ野郎なんだよ〟



 まず前提として、屑野郎くずやろうだったのだ。



 ……パールゥがなみだぬぐっている。

 いつの間にか嗚咽おえつさえらしながら、こんな俺に向き合って泣いている。



「それなのにっ……それなのに、ケイ君はたまにすごく人に優しくする。負けたマリスタをはげました時も、みんなの想いを背負ってティアルバー君と闘った時もそうっ。自分に都合のいいときだけ、ものすごく人が欲しい言葉やして欲しいことを汲み取って、やりたい放題人に期待させてっ……それで普段ふだんは当たり前のように突き放すッ!!」

「………………」

「どうやって君に接したらいいかもう解らないんだよっ。近付いて離れて、人の気持ちを弄んでっ…………嫌うなら嫌ってよっ。突き放すならちゃんと見捨ててよッ!!」

「どうしてだ?」

「……え?」

「どうしてそこまで傷付いていて、未だに俺にせまる? 俺と学祭を回りたいなんて言える?」

「――……」



 細めた目から涙をこぼし、パールゥが俺をにらむ。



「――――それでも君と居たい、君を知りたいって思うからっ。これだけの気持ちを投げかけても答えすらくれない君でも、そばに居たいって思うから!」

「――パールゥ、」

だからこそ・・・・・、君が欲しい言葉なんてあげない。私を振るための言葉なんて言ってあげないっ。私はケイ君みたいに、都合のいいときに都合のいいように、君をおかして自分の気持ちを伝えるの。君が私を犯したいと思うそのときまで」



 強い瞳が俺を射抜く。

 眼鏡と前髪の向こう側。

 にじむ涙がその目に更なる輝きを与える。



 この少女は、こんなに強い目をする人だっただろうか。



 …………ごめん。



 それはそれで都合が良・・・・・・・・・・

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