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「来ないよ」

「!」

「そんな日は来ない。けい天瀬あませがパールゥ・フォンを犯したいと思う日なんて来ない」

「……大丈夫だよ。犯させてみせる・・・・・・・から。ケイ君がふとした時に見せる優しさが何よりの可能性だもん」

「――――」



〝君の今までの行動を見て『お人好しじゃない』なんて言う人、いないと思うよ〟



「……いいよ、好きにすればいい。俺も勝手にさせてもらう」



 互いに都合のいいときだけ、己の気持ちを満たすためだけに相手を利用する関係。

 その先に見据みすえる目的こそ違えど、これで俺とパールゥの関係はひとまず固定した。

 だから、改めて言おう。



「俺はお前と学祭を回らない。それ程の借りを作った覚えは無い」

「……人でなし。でも分かったよ。大きな貸しを作ったら学祭、一緒に回ってくれるんだね」

「……好きに解釈するといい」



 パールゥは俺が好きだろう。

 ということは、俺と恋仲になることを望んでいるはずだ。



 見物みものだな。

 ここまでいびつになった関係が、どう間違ったら恋人関係になんぞなれるものか。



「――――練習、続けるの?」

「こんなすさんだ気分で役になり切るもくそも無いだろう。ここまでにするよ、付き合ってくれたことには感謝――」

「ここに居たっ!!」

「いたーーーっっ!!!」



 駆け込んでくる声。

 髪を振り乱しながら飛び込んできたのはエリダとパフィラだった。

 パールゥが慌てて目に残った涙をぬぐう。



「エ――エリダと、パフィラ?」

「どうしたんだ? そんなに慌」

「シータの意識が戻ったのッ!」

「あっというまっ!!」

『!?』




◆     ◆




 引き戸を開ける。ドアの近くにいたリセル――校医こういパーチェ・リコリスが目配せした先に、体を起こした彼女は居た。



「シータっ。目が覚めてよかった、体は大丈夫!?」



 パールゥが駆け寄っていく。意識を取り戻した少女――シータ・メルディネスはうつろな目をしたままで、近寄ってきた桃色ももいろの髪の少女にされるがまま、肩を揺さぶられた。



「パールゥ。今目覚めたばかりだから」

「あ、ご。ごめんっ」

「あ……いや。いいのよ。体調は別に悪くないから」



 パールゥをたしなめたリアに、シータが抑揚よくようの少ない声で言う。しかし、別段べつだん血色が悪いというわけでも無さそうで、ただ元気が無いようにだけ見えた。



「体にも、魔力回路ゼーレにも異常はないんだって」

「――そうなのか?」



 俺の言葉を先回りし、リアが告げる。

 近くに来ていたパーチェが小首をかしげた。



「意識が無かった時の検査と全く同じ、何も変化なし。こう言ってはナンだけど、襲われた後だとは思えないくらいに健康よ」

「パ、パーチェ先生っ」

「他の奴らは?」

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