2



 体を大きく大きくらし、真っ直ぐに伸びた黒の腕をかわす。

 だがあおぎ見た視界には、黒のもう片方の手に握られた、切っ先がこちらを向いた片手剣。少女はもう、体勢を戻すことさえ叶わぬ。



「――――」



 ヴィエルナは目を細め――――限りなく背を地面に近づけたその体勢から、超速ちょうそくで地をり飛んだ。



 両足の魔力回路ゼーレが脈打つ感覚。



 そんな違和感いわかんと共に、何とか串刺くしざしのき目を逃れたヴィエルナはそのまま後転こうてん要領ようりょうで構えた両手の平を地に叩きつけ回り跳び、ラピドの勢いを殺さぬまま空中で体勢を立て直し、



 立て直した時垣間かいまえた背後に、黒装束が迫っていたのを見た。



(!!? ウソ、奴は今目の前にいるのに――――)



 瞬転空アラピドを試みようと足を構え。

 上空から降りてくる黒装束を察知し。

 眼前から手を突き出し迫る黒装束をとらえ。

 自分が、最初から三人一組に追われていたのだと思い至ったヴィエルナは、全てをあきらめ力を抜いて、



 視界を斬り裂いた雷槍らいそうに貫かれ吹き飛んだ黒装束を見て、自分でも驚くくらいの速度で上空へと蹴り飛んだ。



『っ!?』



 動揺どうように追撃を忘れる黒二人。

 飛び上がった自分に驚き空中で停止するヴィエルナ。

 そんな彼女を空から片手で抱きさらい、



「俺のダチに何してんだ。テメェら」



 手近な建造物の屋上に着地した雷槍ロハザーは、怒りに満ち満ちた目で襲撃者をけた。



「ろ……ロハザー、どうして」

緊急時きんきゅうじ以外で瞬転ラピド使った時の魔力の反応なんて知覚出来ないワケねぇだろ。それにお前の魔波まはだ、寝起きだって読み違えねぇ」

「じゃなくて。なんでこんな第二層のはしっこにいたのかな、って」

「うるせぇ詮索せんさくすんな泣くぞ」

(いじけてたんだなたぶんライブの音聞きながら)

げえって!!!」

「何も言ってないし」

「うっせーな逃げることだけ考えてろバカ! …………で? オメーをその端っこで追いめてリンチしようとしてたこのクソ共はナンなんだ」

「…わからない。気を付けて。手に触れたらおしまい、多分たぶん。数もわからない」

「関係ねぇよ。もうすぐみんな集まってくる・・・・・・・・・

『!!』



 今にも踏み出そうとしていた三つの黒が身動みじろぎする。

 彼らはそこでようやく、上空の光にじり――――大きく放電スパークする紫電しでん知覚ちかくした。



間抜まぬけ共が。三人もいてこのザマはちっと手際てぎわが悪過ぎんじゃねーのか?――――テメェらは校規こうきに触れた。風紀委員会ふうきいいんかいの名の下にテメェらを拘束こうそくする。来れるモンなら来てみやがれ、そのうち数でつぶされンのはテメェらの方だ。……まァもっとも、」



 雷光らいこうが。

 殺気立った眼光が、魔素まそを伝って激しく弾け輝いた。



「こいつに手ェ出した奴らは例外なく全員、俺一人でもブッ潰してやるけどな――――!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る