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◆     ◆




 ユニアが離れ、別れのシーンが終わる。

 一度舞台裏に引っ込み――いよいよ次がゼタン――――ギリートとの決戦。



「ケイ」



 初演しょえんのときと同じように、けた舞台裏には監督かんとく、シャノリアの姿。

 正確には、今回は俺が頼んでここに居てもらったんだが。



「どうしたの。もしかして『呪い』がうずいて――」

「頼みがあるんだ。絶対にたがえないでほしい大事な頼みが――クラスの奴らの安全のためにも」

「――――え?」



 シャノリアの顔が監督かんとくのそれになる。

 劇に関わる生徒の安全に関わるとなれば、当然そうだろうな。



 だが、相手はギリート・イグニトリオ。

あれだけ人でなしな性格な上、結構な長期に渡り休学しているくせに、器用にもこのプレジアの生徒会長を罷免ひめんされずに勤め上げている男だ。

 あいつなら、無関係な人間に被害が及ぶようなことを完璧に回避してみせる……ような、気がする。



 あいつに全幅ぜんぷくの信頼を置いている訳ではないが……こんなところで信用を失うような奴ではない、という妙な確信がある。

 殺しても死なない奴、とでも言おうか。

 だからこそ、余人よにんを巻き込まずギリートと向かい合う為には――



「……この後のシーン。何があっても、俺やギリートがどんなケガをしても……プラン通りのタイミングで、プラン通りの演出を頼む」

「は――――はい? ちょっとケイ、あなた何を」

「時間は無い、頼むから言う通りにしてくれ。何事も無いように予定通り進めて欲しい、ってことだ。俺達は必ずそれに合わせる」

「っ、それ・・が呪いのせいで出来なかったのが初演しょえんの――」



 シャノリアの言葉を待たず、視界が暗転する。

 言葉を切った暗がりの中のシャノリアに背を向け、蓄光ちっこうを頼りに歩きだす。



「――あんたらを信じる。だから、俺のことも信じて欲しい」



 そんな言葉が、口をいて出た。




◆     ◆




〝――俺のことも信じて欲しい〟



(し、信じて欲しいって……精神論で「痛みの呪い」をどうこう出来るわけじゃ、)



「……!」



 ――シャノリアは思い出す。

 トルト・ザードチップと共に巻き込まれた学生イベントにて、アトロ・バンテラスとケイミー・セイカードを相手取り、呪いの影響を全く感じさせない立ち回りを見せたけいの姿を。



〝――今ならもっとやれるかもしれないんだ〟



(……あの時と同じ目をしてた)



「――今まで俺は、お前が石像か何かのように思えてならなかった。他二人の神が創り出した、まさにカラクリのようなものだと」

「違う。あの二柱ふたりが壊れていたのだ。神の身でありながら感情に――」

「じゃああんたも壊れ者だな。今となっては」



(……もう遅い、か)



 明かりがともり、神と黒騎士の会話が始まる。

 シャノリアは二人が見える位置へと移動し、舞台裏ぶたいうらから見守る。



「あ、シャノリア先生。演出こっち準備じゅんび万端ばんたんっすよ、いつでも――」

「何が起きても」

「え?」

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