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 ――オーウェンが表情を険しくするのが、エマにはハッキリ見て取れた。



「…………あれ・・だったな」

「え?」

「先の実技じつぎ試験しけんで、ティアルバーを失脚しっきゃくさせた人騒がせな子どもだ」

「ええ……確か、ケイ・アマセとかいう子でしたっけ」

「………………」



 やはりエマの言葉には応えず、難しい顔のまま舞台から目を離さないオーウェン。

 エマも弱く息を吐きながら、舞台のケイ・アマセを――騎士クローネをへと視線を送る。



「奴は『神』で、逆に言えば『神』でしかない。同類の神を殺した俺達を憎んだり、自分が殺されるかもしれないと焦ったりなんて感情は、奴には存在しないんだ――



(……彼が来たのは、実技試験の少し前だって話……だったのよね)



 エマとオーウェンが、マリスタの義勇兵ぎゆうへいコース転籍てんせきを知ったのは、実技試験じつぎしけんの結果が伝えられたその時である。

 申し訳なさそうな手紙が送られてきたのが、その直後。

 以降は家に帰ってくることも無く、説明も無く。

 帰ってきたと思ったら、



〝アルクスが捕まえてる私の友達を解放して欲しいの〟



 ――アレ・・だったのである。



(……男の子のことだとは、思わなかったな。あの後オーウェンから聞いて知ったけど)



 昔から友情には熱い一人娘だった。

時には命の危険をかえりみず、大人相手に突っ込んでいくようなことさえあったのだ(無論、オーウェンには秘密である)。



 しかし、異性の友人についてマリスタから聞くのは今回が初めて。



「ふふ……」



 黒い鎧に身を包んだ、整い過ぎる程に整った相貌そうぼうを持つ美少年の、どこかうれいを帯びた表情。

 我が娘が――――オーウェンが注目するのも無理はない、などと、エマは暢気のんきに考えた。



(でも……なんだかあの子、)



「やめろよゼタン。思っても無いことを喋るな」

「……そう言うな。こうした方がよく育つのだ、貴様等は」



 至近しきん距離きょりで向かい合う、神ゼタンと黒騎士クローネ――――ギリート・イグニトリオとケイ・アマセ。

 その表情は、確かに「しんせまる」と評すべき出来できえだが――



(そう、なんだか……イグニトリオ君と話すときだけ、雰囲気が変わるような……)



〝ティアルバーを失脚しっきゃくさせた人騒がせな子どもだ〟



 誰とも知れない一般人に、そんなことが可能だろうか。

 夫に聞けばあの少年は、ディノバーツ家の娘とも浅からぬ縁を持つという。



 姿を現してから数か月で、四大よんだい貴族きぞく全てに何かしら関わりを持つ。



 果たして、それは偶然だろうか。



〝先の実技じつぎ試験しけんで、ティアルバーを失脚しっきゃくさせた――〟



(…………起こらない、わよね。何も)



 気付けば夫と同じような表情をして、エマは舞台ぶたいを見守っていた。

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