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 吹き飛んだロハザーが壁際かべぎわに倒れこむ。

 着地したマリスタが手を広げる。

 地面で水たまりと化していた所有属性武器エトス・ディミが空中を飛び、彼女の手元で再び棒状ぼうじょうに変化した。



「私にヒントをたくさんくれちゃってありがとね、グレーローブさん!」

「………………、」

「『かみなり属性ぞくせい消耗しょうもうが激しい』――あんたの雷、見えないくらい速いのとそうじゃないのとあったでしょ。それにあんたは不自然なくらい突っ立ったままで、自分から全然動かなかった――――考えてみればスゴすぎる・・・・・わよね。雷って音より早いんでしょ、確か。そんな速さ、いくらアンタが強いからって――――出しちゃうとメチャク・・・・・・・・・・チャ疲れる・・・・・。次があるからそれは困る。だから自然と、あんたの放つ電撃は――最低限の威力と・・・・・・・大きさになる・・・・・・

「…………っ」

「そしてもうひとつ。あんたの気持ちになって考えてみたんだけど――――私、英雄の鎧ヘロス・ラスタング使ってるのにほっとんど見えないのね、あんたの魔法。…………あんだけ速い魔法、あんたは見えてんの・・・・・・・・・?」

「…………!」

「…………動けなくって当然よね。ただでさえ私も動いているのに、あんたまで動いたらそれこそ全然当たらなくなる。魔力消費は激しいのに!」



 したり顔のマリスタを、ロハザーが怒りと不安がないまぜになった表情でにらみ付ける。

 マリスタがますます得意げに笑った。



「黙ってるとこを見ると、間違ってないみたいね――思ったより使い辛いんじゃん、雷属性って!」

「……………………」



 ――ロハザー・ハイエイトは、追い詰められていた。

 いな。戦況的には決して、彼が劣勢れっせいであるわけではない。

 これまで圧倒的に劣勢れっせいだったマリスタ・アルテアスが、何とか一矢いっしむくいたというだけ。

 ここまで一撃さえ与えられないままにロハザーの的となっていたマリスタ・アルテアスが、全力をけてようやく、グレーローブの実力者に攻撃を当てられたというだけ。



 だというのに、彼は追い詰められている。



(どうしてだ。なんで俺は、こんなに崖っぷちにいるような気持ちになってるッ!? こんな、こんなエセ義勇兵ぎゆうへいコースの、だい貴族きぞくの道楽の、世間知らずのおじょうサマの阿呆あほに運悪く互角ごかくの戦いをされただけで、どうして――――)



うれしい――わたしっ、あんたとちゃ・・・・・・んと戦えてる・・・・・・!!」

「――――――」



 ――絶望の表情。

 ロハザーは、マリスタの晴れ晴れとした語気に打ちのめされ、うつむく。



「……どうしてって、決まってるじゃねぇか」



 気付こうと思えば、すぐに気付ける事実。

 だから、ロハザーは容易にたどり着いた。



 本来、互角さえあり得ない相手。

 在り得てはならないほど、実力も経験もへだたった相手。



 そんな相手と、時間いっぱいの戦いを続けている。

 その事実は取りも直さず、ロハザーの深層しんそう屈辱くつじょく劣等れっとうを与えていたのだ。





〝お前は弱い〟





「ふざけんじゃねェぞテメェエエェェェッッッ――――――!!!!!!!」

「!!?」

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