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◆     ◆




「商品がキスだって分かった途端とたん……随分張り切るじゃないあのバカっ! お前はわたしの奴隷どれいだろうがっ」

「『今は』でしょう?」

「またハタかれてーかお前ッ!!」

「は。申し訳ありません」



 ココウェルの方を見ずにそう言いながら、黒の騎士はけいへと目を向ける。



 その目に大きく映るのはグリーンローブ。

 プレジア内の序列じょれつでは下から二番目の、最も中途半端ちゅうとはんぱな階級。



(……いや。あれは中途半端ではなく……中途ちゅうと、なのだろうな)



 初めて会ったときに見た、かわいた目。



〝王族に手を出した者が辿たどる道は知れている。祭りの期間中、常にお前たちの喉元のどもとには私の刃が当てられていることを忘れるな〟

〝何か騒ぎを起こすようであれば、俺達は容赦ようしゃなくお前達を拘束こうそくする。忘れるな。騒ぎになって不味まずいのはお互い様だとな〟



 自分と似ていた、渇いた目。



(……久しぶりだな。こんな感覚は)



 返却された武骨な鉄刀てっとう黒鞘くろさやを握り、アヤメは笑いをみ殺した。




◆     ◆




「絶対さぶられてるんだっ、ケイ君はっ」

「落ち着けってフォンっ。こんな外野で騒いでどうこうなる問題じゃねーだろっ」

「外野じゃないっ! ハイエイト君には解らないんだよっ、本気で人を好きな人の気持ちなんてっ!」

「だからそうやって敵作りかねないような言い方はやめとけって……」

「君に言われたくないからっ」

「お……俺は敵対するつもりで言ってるのそういうときは! あんたの場合は意識しないとこで敵増やしてるって――」

「それ、どっちにしたって同じ事じゃん」



 嫌な声がロハザーの耳に届く。

 顔をしかめて振り返ると、そこには案の定、火に油しか注がない人物が――ギリート・イグニトリオが薄ら笑いを浮かべて立っていた。



「……ンでこのタイミングで来んだよ……」

「ちょ。そういう毒突どくづきは聞こえないようにやってよ」

「毒突きそのものを注意しろよ……あんた生徒会長だろ」

「生徒会長とは学校を好き放題できる者の名です」

「サラッと私物化発言すんなよ?!!? 連行するぞアンタ!」

「あれー? あそこにいるのってフォンさんとアマセ君? えっ、このイベントってカップルで出るやつだよねえ? へぇ~ほぉほぉなるほどぉ~」

「解っててあおるのマジやめろよあんた。最低だぞ」

「最も低いって言われちゃった。参ったなこりゃ」

「うっぜぇなこの人ホント……」

「だから陰口を日向ひなたで言わないでってばー」

「うるせーうるせー。つかどうせあんた、最初っから見てたんだろ。恋に恋した同好会こいつらに最高権利くれてやったのもあんたなんだしよ」

「あ、バレた? いやはは、腹抱えて笑わせてもらったよ。ナイスパンチフォンさん」

(死ねよあんたマジ……)

「ていうか、彼病気は? その辺のこと、ハイエイト君は何か知ってる?」

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