7



 その惨殺ざんさつの終わりに、緊張の弛緩しかんに――――ココウェルは剣の突き刺さった腹部を押さえ、床にうずくまった。



「!」

「うぅ……」

「殿下。お気を確かに。もうわずかの辛抱です」



 駆け寄ったナイセストがココウェルの体を起こし、



「ッひ……!?」



 腹部をまさぐり、刺傷ししょうに手を押し当て――闇を傷口に流し込む。



「なッ……なにをっっ、」

「引き抜きます。息を吸ってください」

「っ!? ちょっと待ってあなた治療はっっ」



 腹をなぞる不快な痛みと共に、剣が引き抜かれた。



「ィアあァッッ!!――――ぁ、?」



 ――思ったほどの痛みではない。

 棒状の鉄が内臓を押しのけるような不快感だけで、ほぼ無痛だったようにも感じた。



 体を抱き上げられる。



「はうっ!?――あだっ」



 名も知らぬ筋肉質な体に抱きかかえられ、慌てて身動みじろぎしたために体が痛む。

 



「闇で鈍化どんかさせた痛覚は傷口付近のみです。あまり動かれませんよう」

「あ、あなたが急に変なことするから――あっ」



 そう言っている間に下ろされるココウェル。

 壁際で生き残っていた柔らかなソファに、布をかけられただけの半裸の少女が沈む。

 それを見降ろすのは、同じく半裸の目が怖い男。



 ――襲われた記憶がフラッシュバックする。



「っっっ――――ぁ、はっ、はァっ。やめてっ、」

「! 殿下――」

「触らないでぇぇっっ!!!」



 手をメチャクチャに振り回し、襲いかかる男の手を遠ざける。

 呼吸が荒くなり、目が回り、動悸どうきは傷口を打ち――――血を吐く体を起こして布で体を隠す。



「はぁっっっ、はァッッ――――っ、」



 汚い男は――――少年は、大きく下がって目の前にひざまずいていた。



「――――、」

「心中お察しいたします、殿下。火急とはいえ臣下の分をわきまえず、殿下に直接触れるなど不埒ふらちの極みであることを承知で申し上げます。どうか御身おんみに応急処置をほどこさせていただけませんか。このままでは殿下のお命が危ういのです」

「――――――――どうして」

「?」

「どうしてあなたは……私を助けてくれるのですか?」

「……敢えて申し上げる理由などありません」

「どういう――」

創家そうけよりこれまで。そしてこれからも――――永久とわに、ティアルバー家はリシ・・・・・・・・・・ディア家に尽くす為だ・・・・・・・・・・けに存在する・・・・・・。そう誓い、今ここに在るのです」

「……!」

「ですから殿下。どうか――この手を」



 ――底抜けの恐怖で体が震える。


 救われたことを悟った目が涙を流す。


 いいようにまさぐられた体が怖気おぞけち呼吸を乱す。



 救いを求める手が――――ゆっくりと、ゆっくりとナイセストへ伸びる。



「……殿下」



少年の吊り上がった目が、初めて悲哀ひあいゆがみ。



 伸ばされた手を下から取り――――臣下はその手に体を寄せて再度ひざまずき、額の前に寄せてこうべれた。



「――申し訳ございません、殿下。そのようないたわしきお姿を衆目に晒させてしまい、申し訳ございません……」

「……助けてくれるのですか。あなたは、本当に――」

「――御心みこころのままに」

「――――っっ、」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る