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 鍔競つばぜり合う中、ナイセストがとうとうと続ける。



「記録を読んだことがある。三十年以上前か、魔剣・・を手にしたジャールデュルという名の男が、当時騎士ですらなかったベルクロス・イグニトリオに討ち取られ、魔剣回収の功績で騎士に推挙されたと――そして騎士ジャールデュルには、同じ時期に騎士を辞した兄がいた。どうやらそれが貴様のようだな」

「カカカ……そうともよ。故にリシディアに、貴様ら大貴族に復讐するこの時を我が天命得たりと――」

「もう喋るな。無様をさらすだけだぞ、老害」

「――何?」



 ナイセストの双剣がひらめき。



 その一閃で、鎧を繋げるベルトを斬り裂く。



「っ!?」

「『大貴族への復讐』? 馬鹿も休み休み言え。貴様が本当に仇討ちを欲していたのなら――――こんな小さな戦場にいるわけがない」

「な、」

「一番の仇敵きゅうてきはベルクロス・イグニトリオだ、そうだろう? そして奴は今国境でバジラノと戦っている、貴様がそれを知らんはずもない。貴様は仇敵がいる戦場でなくこちらを選んだのだ。恐らくはおのが命惜しさに」

「――馬鹿、な、ことをっ!!、」



 長剣の追い付かない小回りで、ナイセストがフェゲンを翻弄ほんろうする。

 鎧の接合部をことごとく断ち切り――――ついにフェゲンの体から白き鎧ががれ落ちる。

 黒いアンダーアーマーだけがあらわになった。



「もうもちそうもない・・・・・・・から核心を話そう。貴様は貴様に負けた、その原因を自分でなく外に求めた、結果弱者をなぶることでしか自尊心を満たせなかった、それだけだ」

「――貴様ッ、」

「王国には敵わない者が大勢いた、だからそれらを避け王族を、老いた王とか弱い王女を狙った――――貴様という人間の本質が透けて見えるだろう。身の程を知る力を持っていたにもかかわらずそこから目を背け続けた、弱い自分を直視できず、そのくせ騎士に固執こしつし都合良く解釈したゆがんだ騎士道を捨てられないままそこまで老いた愚か者。それがフェゲン・ジャールデュルという人間のすべてだ。――――さかしく老いた振りをするな。老害」

「貴様ごときにの何が解るぅゥゥァァッッッ!!!!!!!」



 怒号と共に放たれた老騎士の最も若い一撃は、



「貴様の人生は何もかも愚かだな、」



 老人と会話せず、ただ説教ばかりを繰り返した若者に片手の剣で受け止められ。



「人間は他者を理解できる生き物ではない」



 もう片手の剣が――――巨大化し、老騎士の腹部を深々と深々と深々とえぐり抉り抉り抉り抉り抉り「じゅーーーーーづづづづづづづづづづづぁぁぁァァァァアアアアアッッッ!!!!!!!!」



 ――黒紅の剣が遠く、城の反対側の壁にまで伸び、突き刺さって止まる。

 腹部を貫通し、根元に近付けば近づくほど老人のどうを削りに削る太さとなった黒き剣に押され後退した愚人ぐじんが、体内から吹き散らされた自身の血と肉と臓腑ぞうふの中で停止し、辛うじて口にのぼった最後の血を吐く。



「――・・――――・・・愚かよな。そうして下々をかろんじるから――・・国が落ちぶれた原因に永劫えいごう気付かない」

「……軽んじているように聞こえたか」

「カ。精々見下しているがいい……その内に思い知る。そうした分断が、リシディアの闇そのものなのだと」

「国を分断しようとした貴様が訳知り顔で語るな」



 所有属性武器エトス・ディミが消える。



 巻き散った血と肉の花の中で、老騎士は絶命した。

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