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 ――壁際に追い詰められるナイセスト。

 瞬転ラピドで地面近くを逃げると読んだフェゲンの袈裟懸けの一撃はしかし、その場でフェゲンの顔の高さまで跳躍し壁を蹴り老騎士の肩口を飛び越えすぐ背後に転がり回転剣の届かぬ位置ぎりぎりに着地したナイセストにより難なく回避される。



「――ッカカァ。防戦一方だのう、若造」

「『魔剣まけん』は国の回収対象だ。どこで手に入れた?」

「カカカ、知らずともよいことよ――……それにこれは魔剣であって魔剣ではない。ちょっとした」

模造品レプリカか。ならば破壊すれば済むな」

「カカカカ! 壁際まで追い詰められていながら破壊すると!? カカカカカッ……そこのとんまといい貴様といい、実戦経験があまりにも乏しい。そんなことだからこの老いぼれにさえ追い詰められるのよッ!」



 フェゲンが三度ナイセストに迫る。

 ナイセストはその一撃を今度こそ真正面から受け止めてしまい――――ナイフに長剣の刃が食い込み――



「そうか、」



 ナイフが断たれて長剣がナイセストを、



「なら貴様は単なる老害ろうがいか?」



 ――両断する前に、光の切っ先が長剣の柄・・・・・・・・・・にある宝石を貫いた・・・・・・・・・



「――――何、」



 宝石がひび割れ、砕け散る。



 模造品レプリカ破魔はまが――その効力を、失う。



「ッ――何が、」

模造品レプリカは力の核となる魔石に闇属性の魔力を封じ、やみ侵食しんしょくによって破魔に見せているだけのまがものだ。長年の使い手でありながら、無為むいに年を重ねただけの貴様はそれすら知らなかったわけだ」

「――馬鹿な。闇におかされたその体で光属性を練るなら時間が――」



〝カカカ――そんな不慣れな武器でいつまでもつのかね?〟


〝……仕方ない・・・・



「――あれは武器のことでなく、光の魔力を練ることを……!!」

長剣ロングソードは得意なんだったな」



 ナイセストが二つの所有属性武器エトス・ディミを手に下げる。



「来いみ枝。いい加減剪定せんていの時間だ」

「カカ、カカカカ……そうして若造は年寄りを見くびりよる。それが気に食わんのだッ!」



 応酬。

 火花が散り剣光が舞い、破魔の効力を失った長剣と鎌剣コピシュが打ち合わされる。



 鎧を避け、的確に首をはねんと向かってくる黒紅の双剣に――フェゲンは、確実に、後退していく。



「ぬ、ぐ、ァ……!!」

「不得手な武器で拮抗きっこうしていた。当然こうなるのさえ貴様では思い至らない――――いや、目をらしていたというべきか? フェゲン・ジャールデュル・・・・・・・

「ッ!!? 貴様ッ、」

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