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 俺は呪いを受け、満足な生活も出来なくなった。

 現状対処法はなるべく波風立てず生活することのみで、それも経験から「そうではないか」と予測出来るだけのこと。

 医者にしたって、それに確信が持てているわけではないはずだ。

 現に同じ医療の知識を持ち合わせる者でも、コルトスとパーチェでは呪いの対処法として教わった内容に違いがある。

 それをこいつは――



「――何か知ってるのか、トルト。お前は、」

「グダグダ言うな。行くのか、行かねぇのか。どうなんだ」



 顔を上げる。

 先程追い払った二人が再び激戦区を抜け、俺がいるはしの方へとじりじり近付いてきている。

 警戒しているのは俺ではなく、当然トルトとシャノリアの教師ペアだろう。



〝俺、またお前に憧れていいかな〟



 ……結論は頭にあった。

 本に知識を求めることも出来ない。

 医者からの、呪いの対抗策への教授も望み薄。



 ならば、俺に出来るのはもう――――この身をもっ解呪かいじゅ・ないし呪いの抑制よくせい方法を知るより他に無い、と。



 行くか、行かないか。

 俺が復讐者でい続けるためには――――選択の余地など、無い。



「ちょ――ちょっと待ってください、ザードチップ先生っ! ケイは」

「知ってるよ」

「でしたら――」

「ああ。だからこそ何か、つかめそう・・・・・な気がするんだ」

「何を言って――っ! ケイっ」



 立つ。

 二人に対峙たいじする。



 ベージュローブの二人組。一人は義勇兵コース。

 実力は折り紙付きだ。



「――、ふう」



 肩の力を抜く。

 目の開きをゆるめる。



 ――勉強の時と同じ思考に、切り替える。



 こんな戦い方、試したことはない。

 だがもう、「今まで通り」は通用しない。

 心静かに。

 計算式を解くように。



 全く新しい戦い方を身に付けろ、天瀬圭!



 向かい合う少女の背後に魔弾の砲手バレット装填そうてんされる。

 数は二十。キリのいい数字だ。

 背後を守るのは男の方。役割を逆にしたか。

 捨て身の姿勢は見られない。あの男子からの援護は四、五発想定でいいか。



 手っ取り早いのはトルトるキツネを演じることだが、それは無し。

 攻撃手段は肉弾にくだん魔弾まだんのみ。

 ターゲットを壊せばいいだけの戦いだ。遠距離から攻撃可能で、防御手段の無い魔弾で攻めるのがセオリーなのは自明じめい



 でも、それじゃ先と何も変わらない。だから――



 互いに掃射そうしゃ

 二十の魔弾が空を塗りつぶし、白煙はくえん中空ちゅうくうを満たす。

 それも一瞬。



 炸裂さくれつし切らない爆風を突き破り、十数発の魔弾の砲手バレットが飛来していく。

 やはり意表を突こうとしてきたか。流石さすがはベージュ。

 これだけ弾丸が飛び交う中だ、爆炎の向こう側に隠れた魔弾の砲手バレットなど咄嗟とっさには感知かんち出来ない。

 だが初級魔法しょきゅうまほう魔弾の砲手バレットとはいえ、数十発を放とうとすれば多少の疲労は避けられないはず

 そうしてまでも、ここで仕留めたい相手だというわけか。



 光栄だな。

 こいつにそうまで思われるのは。



「ッ!」



 煙のはしを突き破る。

 伸ばし、彼女の――義勇兵コース六年生、ベリンダ・リプセットの眼前に迫った手は、あえなくつかまれた。



 思い出した。確か二ヶ月前、実技試験じつぎしけんでの第四ブロック準優勝者だ。

 風紀ふうきの連中が第二ブロックに集中した結果勝ちを拾っただけだと言われていたが、とんでもない。大した実力の持ち主じゃないか。

 魔弾の砲手バレットの時間差発射で攻めながら、こうして俺が接近戦を仕掛けてくる可能性も考えていた。

 


 あんただけは。


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