6



 少女は、首元から小さな魔石の付いたネックレスを取り出して光らせ。

 マスクと眼鏡を両手で少しずらしながら、笑いかけてきた。



 ――――途端とたん



「あっ……!」

「な――――」



 何故、その顔に気付かなかったのだろう。

 馬鹿野郎が、思考と共に目までぼやけてしまったのかお前は。

 こいつは――



「やほ。今日は完全オフルックなんです。ビックリした?」

「リ――リリスティア・キスキルさん!!? え、あの、声――風邪でもひいてるの?」



 ――そう。天瀬愛依あませめい、もといリリスティア・キスキルではないか。



 声も、マスクの下からのぞいたその顔も、見間違えようがない。

 馬鹿な、何故なぜ俺は声を聴いたときすぐに――――



 ――声がおかしくなかったか?



「アハハ、解んなかったでしょ。当然だよ、これ使ってるんだもん」



 リリスティアはケラケラと笑いながら、首元のネックレスを再度手に取る。

 パールゥが目をぱちくりさせて一歩前に出た。



「……それ、何かの魔装具まそうぐなの?」

「うん。変声石サリダクトっていうの。聞いたことない?」

「ぜ、全然」

「うふふ。ナイショだよ? これはね、こうやって」



 リリスティアが石に魔力まりょくを込める。

 途端とたん、光った魔石ませきが彼女の首元におぼろな光の輪を作りだす。

 と――



「――こう使うの」

『!』



 魔石の光が消えた直後。

 目の前の黒髪の少女から聞こえてくる小声は、すっかりリリスティア・キスキルから聞いたそれになっていた。



「す……すごい。そんな魔石もあるんだ」

「魔石というより、魔術石まじゅつせきだね、これは。一度起動させると、術者の魔力を消費して特殊な魔波を出して、音波に働きかけてくれるの。それで声が変わって聞こえるってわけ。毎回適当に違う声にして使ってるんだ」

「へえ……アイドルって大変だね」

「夢を売るお仕事だからね。くずさないようにしなくっちゃ」

「……それ、俺達に教えていいのか?」

「うん、このくらいは。それに、姿隠すのに使ってる魔法はそれだけじゃないし。認識阻害の魔法とか、他にも色々ね。ああそう、それと――こないだは二人で来てくれてありがと」

「え、え、み。見てたのリリスティアさんっ!?」

「アハハ。そりゃあ、いきなり控室ひかえしつに押しかけられたら覚えちゃうし、見つけたら忘れられないよねぇ」

「そ――そだったね、そういえば。あ、あはは……」



 じと、とパールゥが視線を送ってくる。

 分かったよ。



「あの時は済まなかった、リリスティア。どうかしていた」

「いいんだってば、私は。謝るなら、あのときハッ倒しちゃったスタッフさん達にお願いね」

「あ、ありがとう」

「うん。で、いよいよ今日だよね。劇があるのって」

「ああ、その通りだが」

「あっ、もしかして――見に来てくれるの? リリスティアちゃんっ」

「もちろん! 学祭最終日、絶対観に行くよ。だから頑張ってね、練習っ」



 にこり、と、俺の顔をのぞき込むようにしてリリスティア。

 「うん!」と応じたパールゥの声が、どこか遠く聞こえる。



「……なあ、リリスティア」

「ん?」

「お前、どうやってそんな魔術石を手に入れた?」

「え?」

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