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 まばたきをしたリリスティアが動きを止める。



「あー……、どうだろ。高価ではあるけど、色んなところで売ってるんだと思うから……」

「お前がそれを買った場所で構わないよ」

「それなら、私の場合は王都だね。ずっと前から予約してて、やっと買えたんだ」

「……そうか。王都か」



 ……出所でどころは王都の可能性か。

 しかし変声機のようなものまで存在するとは。

 どこぞの本の話のように、髪の毛一本で姿形まで真似られるようなものがないといいが。



「ナニナニ、君もこれ欲しくなっちゃった?」

「ああ、そんなところだ。情報ありがとう、リリスティア。……それとその」

「ん?」

「余計なお世話かもしれんが。今後はやたらと人目を避ける方法を明かさない方がいい。夢を壊したくないんだろ」

「…………」

「あ、アマセ君?」



 パールゥが小さくそでを引いてくる。

 リリスティアは一瞬ポカンとしたが、やがて目を細めてにこやかに笑った。



「うんっ。心配してくれてありがとう、アマセ君。これから気を付けるかは分かんないけどね」

「気を付けてくれよ」

「ふふっ、冗談。ちゃんと気を付けるって――それじゃあね、二人とも」



 変声石サリダクトを発動させ、最初とも地声じごえとも違う声を発し。

 リリスティア・キスキルはくるりと向きを変えて去っていた。



「……優しいんだね。こないだ知り合ったばかりの女の子の心配までしてあげるなんて」

「手当たり次第に嫉妬しっとするなよ。そら、急ぐぞ。本当に遅刻しちまう」

「あっ……ま、待ってよっ!」




◆     ◆




 劇という出し物は、本当にどこまで突き詰めてもキリがないほど奥深い。というか、時間を食う。

 リハーサルを行えば確実に上演時間分の時間を食っていくし、そこに音響おんきょうや光、動きや演技に微調整びちょうせいを加えていくとなると、午前の常識的な時間から午後の常識的な時間までしか開催されていない学生のもよおしなど、気が付けば終わっている時間である。



 そんなわけで、俺達六年二組と四組の面々は命懸いのちがけで――――鬼監督おにかんとくシャノリア・ディノバーツの要求にひとつひとつ確実にこたえつつ、前夜祭ぜんやさいまでに自分達の芝居しばいをひとまず、「シロウト集団なりに誰に見られても恥ずかしくない(シャノリア談)」というレベルにまで高めたのである。

 付き合わされた俺はたまったものではなかった。



 だがまあ、それもこうそうし。



「――よし。じゃあ、今日はこれで解散。夕方に集まってくれればいいわ。遅れないでね」

『ッッしゃ!!!』

「うわっ?! な、なによみんなしてそんなに喜んで…………ま、かなりの時間をとっちゃったのは確かか。ここまでありがとうね、みんな。おかげで決してつまらなくはない芝居になったと思う。あとは舞台の上で気持ちよくりなさい。じゃあ解散っ!」



 蜘蛛くもの子を散らすようにいなくなる面々。マリスタやロハザー、ビージ達もどこかへと去っていってしまった。奴らにも練習に付き合って欲しかったが、パールゥが出るシーンと場面が違う。待たせるのも悪いだろう。

 舞台セットが立てられている会場を我先にと後にするクラスメイトに逆行するようにして、舞台へと近づく。

 さて、さっそく自主練を――――

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