10



 一打。



 右のひざ関節かんせつ目がけて撃ち込まれた一撃は障壁しょうへきを破壊こそしないものの――体にぴったりと張り付いた障壁への衝撃は機体を貫通、「ディオデラ」は膝を屈してバランスを崩す。



「ぬぉっ!? 貴ッ様――」



 仰向あおむけに倒れ行く「ディオデラ」の、ノジオスの眼前には――既に二撃目を振りかぶったアティラスの姿。



「対して強くもない小僧こぞうが――!!!」

「ッずぁぁァァァッッ!!!」



 裂帛れっぱくを伴い、ノジオスのいる機体の中心たる「核」へと振り下ろされた鉄塊てっかい巨撃きょげき

 眼前に迫る脅威きょういにノジオスはたまらず両手でこれを防ぎ切り、



「馬鹿めがこの程度で――!!!」

詠唱えいしょう完了だ。いい働きだぞ王国騎士ッ!」

「ッ!? しま――」



 後続こうぞく最上級さいじょうきゅう魔法まほうへの備えは、何もなくなった。



四天滅却の火明アングリフェア・ラニグイングッッ!!」



 業火ごうか

 一瞬にして周囲の景色が白熱に染まり、急速に暖められた熱気が各人かくじん鼻腔びくうをひりつかせる。

 


 商業区の建造物を超えて上がった火炎は、やがて黒き煙の中に消え失せる。

 術者のアルクスがかなめの御声ネベンス・ポートを開いた。



『敵は動いてるか!?』

『動いてない。でもまだ魔力は感じられる』

『これでも割れてねぇってのか……!? 吸収されたような様子はあるか!?」

『いや、そんな感じは』

『魔石の位置は割れたのか』

『まだだ。だが機体前面にないのは確実だ、次は背面を――』



 煙を突き破り。



 噴流ジェットで強化された拳が、生身のアティラスと術者のアルクスを打つ。



『な――!!?』

「――――――、」



 一瞬で姿が見えなくなる二人。

 マリスタは、アティラスの飛んで行った方向の建造物が轟音と共にドミノのように倒れていくのを、ただ茫然ぼうぜんながめた。



 商業区を割るように。



 アティラスとアルクスは、それぞれ区画の端まで吹き飛ばされていた。



「――――ばが、ァ、」



 幾棟いくむねもの石の建物を突き破り、区画をへだてる鉄扉てっぴに激突しようやく停止したアティラスが、頭から大量の血を流しながら倒れる。

 ぼんやりとした視界の中で、



(……何なんだ。魔力を全く感知できなかった……)



 鉄の拳が、繋がれた線に引かれて戻っていくのが見えた。



「・・・ロケットパンチ・・・」

「ま……魔力をまったく介さない攻撃か……!!」

「休んでてっ、サイファス!」

「ハァ――――ハァァ……!! よくも焼き焦がしてくれたなァあのクソアルクスゥゥッッ!!」



 煙を引き裂き。



 ノジオスが血走ったで、マリスタをにらみつける。



「っっ、ぁ――」



 その気迫に、マリスタはただ気圧けおされ。



 そのすきに、斜めに突き出た両肩の装甲が開き――――既に充填じゅうてんの完了した巨大な銃口じゅうこうが、マリスタらへ向けられた。



「もう後はない、後はないのだ――――我々にはもうこれしかないいいィィッッ!!!」

「――――――、「ゼルテ頼むッ!!」

岩群の王棺ルペスカ・ルカラスッッ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る